腸のリハビリ治療 理学療法士が考える短腸症候群の運動

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腸のリハビリと聞いてどんなことをイメージされますか。

腸を始めとする消化器官は食べた物を消化、吸収して同時に不要なものは排泄します。

「吸収」は主に腸で行われます。腸が無ければ体は必要な栄養を吸収することができません。

つまり「腸は命の中心」といっても過言ではないのです。

そんな腸もリハビリの対象となることもあります。

短腸症候群をご存知でしょうか。

これは様々な疾患によって広範囲に腸が切除され、腸の栄養素を吸収する能力が著しく低下した状態を指します。

リハビリテーションを行う上で、この短腸症候群の病態理解は欠かせません。

なぜならリハビリを行うには、体の各組織に十分な栄養素が供給されていなければならないからです。

 

十分な栄養素がないままにリハビリで運動などを行うと、それはかえって逆効果になってしまうこともあります。

 

そこで今回は短腸症候群がどのようなものなのか、その定義をご紹介し、短腸症候群のリハビリ治療はどのようなことを行うのか解説していきます。

 
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小腸の栄養吸収 同じ小腸でも場所によって吸収されるものは違う

小腸が栄養吸収を行うところというのは、皆さんなんとなくお分かりだと思います。

しかし、同じ小腸でも場所によって吸収される栄養素が異なることは、ご存知ないのではないでしょうか。

 

短腸症候群でも切除された小腸がどの部位にあたるのかによって気を付けるべきことも変わってきます。

まずは、小腸の部位別に吸収されるものを紹介していきます。

 

腸とリハビリ 十二指腸で吸収される栄養素

まずは十二指腸の場所を確認しておきましょう。

胃の次にあるのが十二指腸です。

位置関係が分かりやすいように胃と十二指腸を一緒にのせています。

短腸症候群 リハビリ 十二指腸

十二指腸では鉄、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルが吸収されます。

マグネシウムは様々な酵素が働くのを助ける作用があり、大便を軟らかくする作用も持っています。

カルシウムは骨を丈夫にするだけでなく神経伝達にも関わります。またカルシウムは腸に対して「ぜん動運動」を活発にさせる働きがあります。

 

十二指腸がない状態では、食事でいくらカルシウムやマグネシウムを摂取しても吸収されにくくなります。

これらが吸収できないと便は硬くなり、腸の動きは鈍ります。

 

つまり十二指腸が手術などで切除されていると、便秘になりやすいのです。

リハビリで運動を行うときにも、カルシウムが不足していれば骨粗しょう症を発症しやすくなりますので骨折に注意が必要になります。

 

腸とリハビリ 空腸で吸収される栄養素

空腸の位置を確認しておきましょう。

十二指腸の次に空腸があります。

短腸症候群 リハビリ 空腸

空腸で吸収されるのは糖と水溶性ビタミン(ビタミンB群、ビタミンCなど)です。

糖は体のエネルギーになるものです。

水溶性ビタミンは種類ごとに作用は様々ですが、身体のエネルギーを作り出したり、代謝に関わったり、酵素の働きを助けたりします。

 

糖や水溶性ビタミンが不足すると疲れやすくなります。

糖は筋肉のエネルギー源となりますし、ビタミンCは体を酸化させにくくします。

 

つまり、リハビリで運動を行うときには疲労度に注意する必要があります。

 

腸とリハビリ 小腸の中間部で吸収される栄養素

空腸の終わりから回腸の始めにかけての部位です。

空腸と回腸を写真で確認しておきましょう。

短腸症候群 リハビリ 空腸 回腸

 

小腸の中間部では消化するのに少々時間のかかるタンパク質、脂質、脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)が吸収されます。

 

タンパク質は筋肉や臓器など体の組織を作り出すのに使われます。

脂肪は細胞膜になったり、ステロイド系のホルモンの原料になります。また脳の60%は脂質でできています。

脂溶性のビタミンはそれぞれ働きが違いますがビタミンAは目で光を感じ取る働きに関係します。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます。ビタミンEは体を酸化しにくくします。ビタミンKは血液凝固に関わります。

 

どれも欠乏すれば体に重大な影響を及ぼしますが、リハビリで運動を行う際にもっとも関係が深いのはタンパク質です。

タンパク質は筋肉の原料そのものですので、それが欠乏した状態で運動を行っても一向に筋肉は付きません。

タンパク質が欠乏した状態で運動を行うとかえって筋幾は萎縮(細くなって)していきます。

 

腸とリハビリ 回腸で吸収される栄養素

回腸ではビタミンB12、胆汁酸が吸収されます。

回腸の場所を確認しておきましょう。

短腸症候群 リハビリ 回腸

特に注意したいのは胆汁酸です。

胆汁酸は脂肪を乳化といって吸収しやすい状態にしてくれる消化液ですが、これは長く大腸内に留まると悪玉菌と反応して発がん性物質となります。

 

リハビリでの注意点としては、ビタミンB12の吸収不良による貧血に注意が必要です。

 

腸が吸収する栄養素について部位ごとにまとめたものを載せておきます。

腸 リハビリ 小腸の栄養吸収

引用文献より)
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短腸症候群の定義と原因

まずは短腸症候群の定義についてですが、

残存小腸の長さにより、小児では75㎝以下、成人では150㎝以下または1/3以下の場合に短腸症候群と定義される。

ちなみに小腸の長さは成人で、約7mほどあります。

 

短腸症候群の原因としては、腸間膜動脈閉塞症、絞扼性および癒着性イレウス、外傷、クローン病、腸回転以上に伴う、腸軸捻転、先天性多発性小腸閉塞、壊死性腸炎などがあります。

すこしややこしい名前が多いですね。

簡単に説明すると、腸がねじれたり締め付けられたりして血流不全が起こるか、あるいは傷を負うか、炎症が起こるかして腸の組織がダメになることが原因、と言えば少しは分かりやすいでしょうか。

 

もちろんこれら以外にも原因はあります。

原因を分類してまとめたものがありますのでご参照ください。

腸 リハビリ 原因

引用文献より)

 

短腸症候群の病態

短腸症候群で最も問題となるのは、小腸が短くなることで栄養吸収が不十分になることです。

上記した通り部位ごとに吸収される栄養素が違うため、小腸のどの部位が切除されるかによって出てくる症状も異なります。

 

十二指腸は胆汁や膵液といった消化液を分泌する場所でもあります。ここが切除されると脂肪、タンパク質、糖などあらゆる消化吸収障害が起こります。

回盲弁が切除されると腸通過時間が短くなり、小腸での栄養吸収が十分に行われなくなります。

大腸が切除された場合は、水分、電解質の吸収が悪くなり下痢症状が出ます。それに伴い脱水や血液量の減少、低ナトリウム血症、低カリウム血症も引き起こしやすくなります。

リハビリで運動を行う際、脱水には特に注意が必要です。

 

腸の切除直後は上記のような症状が出てくることが多いですが、慢性期になるとその他の合併症も起こしやすくなります。

まずは水分、脂肪の吸収が悪くなることで下痢や脂肪便が出やすくなります。

またビタミンB12の吸収障害で貧血を起こすこともあります。

 

加えて栄養素が吸収できないと当然、体重減少が起こります。

体重減少と同時に低たんぱく血症、低アルブミン血症、低アルブミン血症、低コレステロール血症が発症しやすくなります。

 

短腸症候群の病期分類

小腸の広範囲切除後の経過を分類したものがあります。

小山の分類と呼ばれます。

以下にご紹介します。

腸 リハビリ 短腸症候群 病期分類

引用文献より)

Ⅰ期(術直後期:術直後~4週間)、Ⅱ期(回復適応期:術後数か月~12ヶ月)、Ⅲ期(安定期:Ⅱ期以降数年)

の3つに分類されます。

Ⅰ期では体に取り込む水分量と身体から出ていく水分量(尿や便)を正確にチェックして、そのバランスをとることが大切です。栄養量についてもHarris-Benedictの式を使って算出、必要栄養量を摂取する必要があります。

腸の機能が落ちている時期なので、通常の栄養補給は難しいことが多いです。そのため中心静脈栄養(TPN)といって静脈に栄養を直接点滴する方法が取られることが多いです。

 

Ⅱ期では下痢の回数も徐々に減ってきます。

しかし栄養吸収力は低下したままなので、栄養管理は必要な状態が続きます。

この時期にTPNから経腸栄養に切り替えられることもあります。

経腸栄養では腸の機能を取り戻すための「リハビリ」効果も期待できます。

ちなみに経腸栄養とは腸に管を入れてそこに「成分栄養剤」という必要な栄養素を含んだものを注入していくことです。

TPNでは静脈に直接栄養素を入れるので、腸は働きませんが、経腸栄養では、腸が吸収する必要があるので「腸のリハビリ」となるわけです。

ただし脂肪吸収障害は起こりやすいため、脂肪の少ないものを使って経腸栄養を行う必要がります。

 

Ⅲ期では状態が落ち着いてくる頃です。

落ち着いてくるということはそこから大きな回復は望みにくいということでもあります。

どの程度腸を切除したかによって機能は大きく変わり、栄養摂取の方法も違ってきます。

 

成人の場合、回盲弁の有無によりますが残っている小腸が50㎝以下だと、中心静脈栄養(TPN)は使い続けなければいけないことが多いです。

そのような場合、退院後に家庭でもできる在宅中心静脈栄養法(HPN)という方法があります。

 

TPNを使わなくても良い場合、経腸栄養から始め慣れてくれば、口からの食事も始まります。ただし最初は消化しやすいものからの食事となり、徐々に普通食に近づけていきます。

 

腸のリハビリテーション 治療体操や運動療法は有効か?

ここからは腸のリハビリ治療についてです。

実は腸のリハビリ治療と言うのは確立されたものはありません

しかしリハビリテーションは単に腸の機能を回復させるためだけにあるのではなく、その方が社会復帰を果たせるように支援していくという側面もあります。

 

特に短腸症候群の方は体に栄養素が足りない状態になりやすいので、リハビリで治療体操や運動をするときにも常に身体の状態のチェックが必要です。

 

また生活の環境を整えることもリハビリの一環ですが、短腸症候群によって在宅静脈経腸栄養(HPEN)を行う場合は、そのために必要な道具はもちろん、家庭や勤務先などで関連する人の協力も欠かせません。

ちなみに在宅静脈経腸栄養(HPEN)とは、在宅で中心静脈栄養や成分栄養経管栄養法を合わせたもので、つまりは、家庭で中心静脈栄養(TPN)や経腸栄養を行うことです。

 

腸とリハビリテーション 運動療法について

短腸症候群などの小腸機能障害に対するリハビリ(運動療法)で医学的根拠のあるものとしては、骨粗しょう症の予防があります。

小腸機能障害のある患者では容易にミネラル代謝の異常が生じる。さらに、基礎疾患に炎症性腸疾患をもつ患者ではステロイドの副作用、および炎症で栄養素が消費されることによる骨粗しょう症の進行が問題となる。

引用文献より)

小腸の栄養吸収力が低下してるとただでさえ、カルシウムなどのミネラルの吸収が悪くなります。それに加えて腸の炎症疾患ももともと持っていると必要な栄養素がさらに消費されてしまい、実ならるの貯蔵庫としての機能もある骨からカルシウムが溶け出て、骨粗しょう症になってしまうというワケです。

 

ヒルシュプルング病のため小腸移植施行となった患者に対する運動療法で、術後安定期に経腸栄養と嫌気性代謝閾値レベルまでの運動負荷により、腸管血流低下による症状なく運動療法を行うことができ、酸素消費量の増加と身体的運動能力の向上を認めた。

引用文献より)

小腸移植後の患者に対し、息切れしない程度の運動を行ったことで、腸の機能を低下させることなく運動能力が向上したという報告です。

つまり、小腸機能に障害があっても負荷量を調節しながら運動療法を行えば、運動能力は向上していく可能性があるということを示唆しています

リハビリで運動を行うことは、筋力はもちろん骨を強くするためにも有効とされていますので、骨粗しょう症の予防にも役立つ可能性があります。

 

腸とリハビリテーション 日常生活について

短腸症候群など小腸機能障害があるからといって過度に安静にしてベッド生活を続けていては、筋肉はやせ細り、日常生活に支障をきたすようになるのは明らかです。

 

ただし、どんどんリハビリで運動すれば良いかと言うとそういう訳でもありません。

腸を切除していることによって吸収できる栄養量が減っていますので、栄養不足のまま運動していては、身体がエネルギー不足に陥ります。

エネルギー不足なった体は、骨や筋肉にあるミネラルやエネルギーを消費してしまいます。

ですからリハビリで運動しすぎるとかえって悪影響となることもあります。

 

そこで、栄養状態の管理を徹底し、その上で適度な運動を行い筋肉を落とさないようにすることが必要です。

歩行が可能なレベルの筋力があれば、日常生活の中での制限も少なくなりますので、「生活の質」ということを考えると「歩行可能なレベル」というところがひとつの目標となると思います。

 

短腸症候群など小腸機能障害のリハビリテーションでは、むやみに安静をとるのではなく、それぞれの状態に応じて適切な栄養摂取と運動療法を行うことが大切です。

 

まとめ

短腸症候群を中心に腸のリハビリテーションについてお伝えしてきました。

腸のリハビリがどんなものかお分かりいただけたのではないでしょうか。

理学療法士は運動のプロですが、一方でリハビリテーションの概念では、運動能力だけでなく、その人の生活や人生の質を上げることが重要視されています。

 

腸の失われた機能は戻ってきませんが、リハビリで残存能力を最大限引き出し、生活や人生の質を少しでも良くするためにリハビリはあります。

腸のリハビリはまだまだ発展途上ですので、今後のさらなる研究に期待しましょう。

参考・引用文献

新編 内部障害のリハビリテーション 上月正博 編

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