栄養学とリハビリテーション 栄養はバイタルサイン!

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リハビリと栄養学、いったいどんな関係があるの?と思われるかもしれません。

でもちょっと考えてみて下さい。

栄養失調の人が運動したらどうなると思いますか。

当然ですが、病気をよくするのにも、筋肉をつけるにも栄養は欠かせません。

 

実際に行われた栄養とリハビリに関する研究でこんな報告があります。

低栄養の患者にリハビリを行うと、リハビリの予後が悪い(結果が悪い)ことが、廃用症候群、脳卒中、大腿骨頸部骨折等で指摘される。

栄養状態が悪いのに適切な処置をせずに、リハビリでトレーニングを行うと、かえって筋肉や持久力は低下してしまいます。

身体機能を向上させ動きやすくなるために行うリハビリも、栄養状態が悪いと全く逆効果になってしまうのです。

 

そこで今回は、栄養状態を手軽にチェックできるMNAの紹介と、リハビリに必要な栄養学の考え方をお伝えしていきます。

 
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リハビリの前にまずは栄養状態のチェック!

まずは今現在栄養状態が良いのか、悪いのかチェックしていきましょう。

栄養状態のチェックに有効なのが、MNA(mini nutritional assessment)です。

 

MNAとは

65歳以上の高齢者の栄養状態を簡単に確認するための、医療・介護従事者向けの実用的なツールです。

MNAは5つの質問項目と1つの検査項目で構成されています。

質問項目としては「過去3ヶ月間での食事量減少」「過去3か月間での体重の減少」「自力歩行の可否」「過去3か月間での精神的ストレス、急性疾患の有無」「認知症、うつ病の有無」の5つがあります。

検査項目は、基本的にはBMI(Body mass index)の測定(BMI=体重(㎏)÷身長(m)の2乗)を行います。

BMIが測定できない場合にはふくらはぎの周囲腸を測ります。

 

MNAの特徴としては栄養状態のチェックシートであるのにもかかわらず、歩行能力や認知・精神機能についての項目があることです。

これは、寝たきりや認知・精神障害が高齢者の栄養状態に強く影響を与えるからです。

 

MNAは全部で6項目の検査で、採血をしたり特別な機器も使う必要がなく、わずか4分程度で行えます。

結果が点数化されて出るので、経過を追うときも変化が分かりやすいです。

こういった点からまずはMNAでの栄養状態のチェックをお勧めします。

 

MNAの使い方の詳しい説明やダウンロードはネスレヘルスサイエンスのホームページから可能です。

 

リハビリに必要な栄養学の基礎知識

まずは一般的な栄養学から解説していきます。

人が生きていくために必要な栄養素は、約40種類あります。

これを大きく5つに分けたのが五大栄養素で「タンパク質」「脂質」「糖質」「ビタミン」「ミネラル」に分けられます。

この栄養素をバランスよく、かつ必要な量をとることで、健康な身体に保たれリハビリの効果も十分に引き出せる状態になります。

 

リハビリと五大栄養素 その1.タンパク質

タンパク質は体重の約1/5を占め、筋肉、内臓、皮膚、毛髪、血液の主要成分となります。

エネルギー源として使うことも可能ですが、あまり使われることはありません。

食べ物に含まれるたんぱく質はそのまま体内で使うことはできず、消化されて「アミノ酸」となり肝臓に蓄えられます。そして必要になれば肝臓から各組織に送られます。

送られてきたアミノ酸から体に必要なたんぱく質が合成されるのです。

アミノ酸には体内で合成できる日必須アミノ酸と、体内で合成できず食物で摂取する必要がある必須アミノ酸があります。

 

リハビリと五大栄養素 その2.脂質

脂質は最も高カロリーの栄養素です。脂質1gあたりのエネルギー量は9kcalで体を動かすためのエネルギー源となります。

また、細胞の膜となったり、ホルモンの材料にもなります。

体の脂肪をためてエネルギー貯蔵の役割もあります。

 

脂質を構成する主成分のことを「脂肪酸」と呼びます。

脂肪酸の種類は以下のようになっています。

必須脂肪酸 分類表

詳しくは脂肪酸の種類について解説したこちらの記事をご覧ください。

参照)必須?不飽和?トランス?脂肪酸の栄養学を表で解説

 

リハビリと五大栄養素 その3.糖質

糖質は炭水化物とも呼ばれ、ご飯やパンなどに多く含まれます。

炭水化物はエネルギー源になる糖質と、消化されにくい食物繊維があります。

糖質は消化・吸収ののち、ブドウ糖となり血液によって各細胞に運ばれ、エネルギーとして利用されます。

 

リハビリと五大栄養素 その4.ビタミン

ビタミンは代謝の調節をする栄養素です。

脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンがありますが、体の中ではほとんど作り出すことができません。

そのため食事から摂取する必要があります。

ただし、たくさん摂ればよいかというとそうではなく、不足しているビタミンを補っていく必要があります。

特に脂溶性ビタミンは体内に身体の中に蓄積しやすいので、過剰摂取に注意が必要です。脂溶性ビタミンはビタミンA・D・E・Kがあります。

 

ビタミンの種類、作用、欠乏したときに起こる症状を載せておきます。

種類 成分 主な作用 主な欠乏症状
ビタミンB1 チアミン 糖質代謝 乳酸アシドーシス、脚気
ビタミンB2 リボフラビン 酸化還元 口角炎、創傷治癒遅延
ビタミンB6 ピリドキシン アミノ酸代謝 貧血、末梢神経炎
ビタミンB12 コバラミン メチオニン合成 悪性貧血、末梢神経障害
葉酸 葉酸 DNA合成 巨赤芽球性貧血
ナイアシン ニコチン酸 脱水素反応 認知症、ペラグラ
パントテン酸 パントテン酸 脂質代謝 皮膚炎、末梢神経障害
ビオチン ビオチン 脂肪酸合成 脱毛、皮膚炎
ビタミンC アスコルビン酸 コラーゲン合成 壊血病、創傷治癒遅延
ビタミンA レチノール 視覚・成長促進 夜盲症、皮膚炎
ビタミンD カルシフェロール 骨代謝 くる病、骨粗しょう症
ビタミンE トコフェロール 抗酸化作用 溶血性貧血、小脳失調
ビタミンK メナキノン等 血液凝固・骨形成 出血傾向

引用文献 若林秀隆:リハビリテーション栄養学:オーバービュー JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION Vol.20 No.11 2011.11より)

 

リハビリと五大栄養素 その5.ミネラル

人間の身体は96.7%が酸素、炭素、水素、窒素の4元素でできています。

残りがカルシウム、マグネシウム、リン、ナトリウム、鉄、亜鉛、銅などでできています。これらがミネラルと呼ばれています。

ミネラルはビタミンの働きを助けたり、酵素や身体組織の材料となります。

ミネラルは摂取しすぎても害になるので、不足しているものだけを上手に摂る必要があります。

ミネラルについてはコチラのブログもご覧ください。

参照)ミネラルの体への影響

 

主な電解質と微量元素(微量なミネラル)の種類、作用、欠乏症状について載せておきます。

種類 主な作用 主な欠乏症状
Na(ナトリウム) 細胞外液と浸透圧の維持 意識障害、無力状態
CL(クロール) バランスとしての陰イオン アルカローシス
HCO3(重炭酸) 酸塩基平衡の調節と維持 アシドーシス
K(カリウム) 神経・筋肉の興奮・伝達・収縮 筋力低下、麻痺性イレウス
Mg(マグネシウム) 細胞内酵素活性 嘔吐、脱力感
Ca(カルシウム) 酵素の活性化、筋収縮 テタニー、意識障害
P(リン) 酵素の活性化、ATPの供給 意識障害、筋力低下
Fe(鉄) 酸素運搬、造血 鉄欠乏性貧血
Cu(銅) 造血、骨代謝 貧血、顆粒球減少
Zn(亜鉛) 蛋白代謝、創傷治癒促進 味覚障害、創傷治癒遅延、皮疹
Mn(マンガン) 脂質代謝、骨代謝 成長遅延、酸化ストレス
Ⅰ(ヨウ素) 甲状腺ホルモン 甲状腺腫
Co(コバルト) ビタミンB12の構成成分 悪性貧血
Cr(クロム) 糖代謝、脂質代謝 耐糖能異常、末梢神経障害
Se(セレン) 抗酸化作用 心筋症、酸化ストレス
Mo(モリブデン) アミノ酸代謝 成長遅延

引用文献 若林秀隆:リハビリテーション栄養学:オーバービュー JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION Vol.20 No.11 2011.11より)

 

五大栄養素の摂取で大切なことはバランスと量です。

量が摂れていてもバランスが悪ければだめですし、逆もしかりです。

せっかく栄養のことを考えるのですから、きっちりバランスと量のことまで考えた食事にしましょう。

 

低栄養とは

栄養障害がある人に対して適切なリハビリを行うためには、低栄養についても知る必要があります。

飢餓による低栄養、急性疾患に関連した低栄養(侵襲)、慢性疾患に関連した低栄養(悪液質)の3種類が栄養障害の原因として提唱されています。

以下に解説していきます。

 

低栄養とリハビリ 飢餓とは

飢餓とは、摂取するエネルギーが消費するエネルギーよりも少ない状態が続くことで、体内の栄養が足りなくなることです。

食物などエネルギー源が入って来ないと、人間は体内のタンパク質、脂質、糖質を使うことで必要なエネルギーを確保し、なんとかその場をしのごうとします。

短期的には肝臓が貯蔵していたグリコーゲンを分解しますが、それは12~24時間で使い果たしてしまいます。

その後はタンパク質、脂質を使ってエネルギー生み出します。

 

タンパク質、脂質も枯渇すると、免疫力の低下、創傷治癒遅延、臓器障害が起こり出します。

そして、体の脂肪を除いた体重のうち30~40%を失うと、窒素死、餓死に至ります。

 

このような飢餓状態で体内にエネルギーがないときにリハビリでトレーニングを行っても、筋力は強くなることはなく、むしろ逆効果となります。ただし寝たきりになっていると、機能は低下する一方です。必要な栄養を補給しつつ機能を維持するための簡単な運動は必要です。

 

低栄養とリハビリ 急性疾患に関連した低栄養 侵襲とは

侵襲とは、具体的には外傷、骨折、やけど、感染症など、そして手術も含まれます。

怪我をした後や、手術の後には、身体が傷を治すことにエネルギーが注がれる時期です。

高度の侵襲では1日に1㎏の筋肉量が減少すると言われています。この期間にリハビリでトレーニングを行っても逆効果となります。

ただし寝たきりになっていると、機能は低下する一方です。機能を維持するための簡単な運動は必要です。

 

低栄養とリハビリ 慢性疾患に関連した低栄養 悪液質とは

ヨーロッパ緩和ケア共同研究では、悪液質を以下のように定義しています。

悪液質は多くの要因による症候群である。従来の栄養サポートでは十分な回復が難しい骨格筋減少の進行を認める。脂肪は喪失することもしないこともある。食思不振や代謝異常の併発で蛋白とエネルギーのバランスが負になることが、病態生理の特徴である

つまり普通に食事などから栄養を取っているだけでは、筋肉がやせ細ってしまう状態と言えます。

悪液質の原因には癌、結核やAIDSなどの慢性感染症、膠原病、慢性心不全・腎不全、慢性呼吸不全、肝不全などがあります。

悪液質は、前悪液質、悪液質、不応性(難治性)悪液質の3期に分けて診断基準を設けることが提唱されています。

前悪液質・悪液質・不応性悪液質の診断基準

前悪液質 6ヶ月で5%未満の体重減少
食思不振や代謝変化をみとめることがある
悪液質 6ヶ月で5%以上の体重減少
もしくは
BMI<20で2%以上の体重減少
もしくは
サルコペニアで2%以上の体重減少
食事量減少や全身炎症を認めることが多い
不応性
悪液質
悪液質の診断基準に該当
生命予後が3か月未満
Performance statusが3か4
抗ガン治療の効果が無い
異化が進んでいる
人工的栄養サポートの適応が無い

引用文献 若林秀隆:リハビリテーション栄養学:オーバービュー JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION Vol.20 No.11 2011.11 より)
全悪液質、悪液質の場合、原因となっている疾患の治療を行いつつ、必要なエネルギーを補給してリハビリを行っていきます。
特に不応性悪液質の場合、適切な栄養管理を行っても栄養改善は困難であるため、リハビリも機能維持を目的とした、ストレッチや座位保持などの簡単な内容になります。

栄養をとればいいってものじゃない。吸収できることも大切!

お伝えしてきたように低栄養状態でのリハビリは、むしろ逆効果となってしまいます。

そのためには食事を口から食べるか、食べれない場合は管を使って胃や腸に直接、流動食を送るか、点滴に栄養素を混ぜて体に入れるか、いづれかの方法がとられます。

 

しかし、栄養を送り込むだけでは不十分です。

それを腸がしっかり吸収できなければ、どんなに優れた栄養素を摂っても意味がありません。

つまり栄養状態を改善するためには、腸内環境の改善も欠かせないのです。

 

腸内環境を改善させるためには、食物繊維や乳酸菌を摂取し、腸内細菌のなかでも善玉菌を増やす必要があります。

善玉菌を増やす食事についてはコチラをご覧下さい。

参照)腸内環境改善は食事から

 

また腸の働きには自律神経が大きな影響を及ぼしています。

自律神経も整え、便秘や下痢など起こさないことも大切です。

自律神経を整えるにはまずは睡眠の質を上げることがその1つの方法です。

 

自律神経と眠りの関係についてはこちらからどうぞ。

参照)正しい睡眠で自律神経を整え腸内環境を改善

 

リハビリ栄養学とサルコペニア

サルコペニアとは狭義では、加齢に伴う筋力量の低下、広義にはすべての原因による筋肉量の低下と定義されます。

狭義の加齢に伴う筋力低下は、加齢現象として誰でも起こることはお分かりと思います。

では、広義の意味の「すべての原因」とはどのようなものが含まれるのでしょうか?

 

それは活動の低下、栄養不足、疾患を原因とするものに分けられます。

つまり、動かなかったり、食事が不十分だったり、病気や怪我があると筋肉が痩せていくということです。

 

ではどこからがサルコペニアなのでしょうか。

実際のリハビリ場面でよく用いられるのは、握力の測定です。

握力は全身の筋力を反映しているので、握力が男性で30㎏以下、女性で20㎏以下だとサルコペニアとする基準があります。

 

サルコペニアと判定された場合は、まずは原因の病気や怪我の治療、並行して栄養状態の改善を行います。

病気や怪我が治癒し、運動できるレベルの栄養状態となってから、リハビリでのトレーニングが開始されます。

リハビリでは手足や胴体の筋肉を鍛えることも重要ですが、同時に嚥下(飲み込み)筋のトレーニングも大切です。

サルコペニアによって嚥下障害(飲み込むときにむせるなど)を起こしているケースもあります。

これを放っておくと肺炎などにかかる危険性も高くなりますので、飲み込みのリハビリも合わせて行っていく必要があります。

 

栄養管理とリハビリテーション

リハビリで運動すると当然エネルギーを消費します。

摂取する栄養は、このリハビリで消費される分も補える量を摂らなければなりません。

 

体重を適正な値に戻す場合、1日あたり200~500kcal余分に摂取するのが良いです。

理論上は7000kcal余分に摂取すると体重が1kg増加することになります。

 

すると1日あたり200kcal程度を余分に摂取していれば、1か月後には約1㎏体重が増加します。

1日あたり500kcalなら、1ヶ月で約2㎏増加する計算になります。

 

このように運動で消費されるエネルギー量も補給しながら、栄養状態に気をつけてリハビリを行っていくことが必要です。

 

まとめ

リハビリに必要な栄養学の知識についてお伝えしてきました。

低栄養にもかかわらず、リハビリをガンガン行うのは血圧が異常に高いのにリハビリを行っているのと同じで非常に危険なことです。

つまり、栄養状態もバイタルサインの1つということができます。

 

ところが、リハビリを受ける人の中には栄養障害をきたしている人が多数いることが分かっています。

簡易栄養状態評価表(MNA:mini nutritional assessment)で調査した研究では、低栄養者の割合が病院では38.7%であったのに対し、リハビリ施設では50.5%とあったと報告されています。

 

つまり病院よりも、リハビリ施設の方が低栄養者の割合が高いということです。

 

またリハビリ施設においては全体の41.2%に人に低栄養の恐れがあり、栄養状態良好と判定されたのはわずか8.5%であったと報告されています。

本来、リハビリ施設は集中的に運動療法などを行うので、普通の病院よりもエネルギー消費が高くなります。

にもかかわらず、このような研究報告があるのは見過ごせない状況です。

 

まずはMNAを利用して栄養状態をチェックし、低栄養状態であれば的な適切処置を施してリハビリを行うようにしましょう。

 

引用・参考文献 若林秀隆:リハビリテーション栄養学:オーバービュー JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION Vol.20 No.11 2011.11

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