人間のお腹の中には、腹膜と呼ばれる膜で覆われた空間があります。
この空間のことを腹腔【ふくくう】と呼び、ここに内臓が入っています。
腹腔に何らかの原因で、細菌が侵入、感染すると腹膜の炎症が起こります。
これが腹膜炎です。
腹膜炎は大きく分けて、急性腹膜炎、慢性腹膜炎、癌性腹膜炎の3つに分類されます。
急性腹膜炎の原因は胃潰瘍や十二指腸潰瘍によって、消化管に穴が開くことや、臓器の炎症、外傷が原因となります。
慢性腹膜炎の原因は、結核性腹膜炎、カテーテル留置に伴う腹膜炎、肉芽腫性腹膜炎、特発性細菌性腹膜炎に分類されます。
癌性腹膜炎は、癌細胞が腹腔内で広がることにより発症します。
今回は、腹膜炎になった時に起こる痛みの特徴や、盲腸(虫垂炎)など、腹膜炎の原因として代表的な病気について紹介していきます。
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腹膜炎と痛み
腹膜炎が起こると、お腹に痛みを生じます。
中でも急性腹膜炎では、腹膜刺激症状【ふくまくしげきしょうじょう】という特徴的な痛みが生じます。
腹膜には臓側腹膜(腹腔臓器の外側を覆う腹膜)と壁側腹膜(腹壁を覆う腹膜)があるのですが、急性腹膜炎では、壁側腹膜にまで炎症が及ぶため腹膜刺激症状が現れます。
腹膜刺激症状には、筋性防御【きんせいぼうぎょ】と反跳痛【はんちょうつう】(Blumberg徴候)があります。
筋性防御
急性腹膜炎になった時にお腹を触ると、肋間神経や腰神経が刺激され、腹筋が反射的に硬くなります。
この反応のことを筋性防御【きんせいぼうぎょ】と呼びます。
筋性防御によるお腹の硬さは腹膜炎の程度に左右され、重度な場合は、板状硬と言って板のように腹筋が硬くなります。
反跳痛(Blumberg徴候)
急性腹膜炎が起こっている人のお腹を、ゆっくりと押さえた後に、パッと手を離し一気に圧迫をとると、抑えていた時よりも強い痛みが出ます。
これを反跳痛(はんちょうつう)と呼びます。
英語名ではBlumberg徴候と言います。
これは押さえていた手を離す時の振動が、腹膜炎の起こっている壁側腹膜に伝わるために起こるとされています。
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盲腸(虫垂炎)と腹膜炎
腹膜炎を引き起こす病気の1つに、急性虫垂炎【きゅうせいちゅうすいえん】があります。
よく、虫垂炎になることを「盲腸になった」と表現されることがありますが、盲腸というのは、大腸の一部の名前であり、正しくは虫垂炎と呼びます。
盲腸と虫垂の位置を確認しておきましょう。
盲腸の一部である虫垂で起こる炎症が虫垂炎です。
急性虫垂炎は食べ物のカスや糞石、リンパの腫れ、腫瘍などで虫垂がつまってしまい、そこが感染症を起こすことで発症します。
上図を見ても分かる通り、虫垂は細長いので、途中で詰まってしまいやすいのです。
虫垂炎が腹膜炎にまで発展するのは、急性虫垂炎を起こした場所に穴が開き、感染が腹腔内にまで及んだ時です。
このように元々の病気があって、それが腹膜炎に発展したものを続発性腹膜炎と呼びます。
腹膜炎の多くは、続発性腹膜炎に分類されます。
急性腹膜炎では、炎症の広がり具合によって分類することもでき、炎症が腹膜全体に広がったものを、汎発性腹膜炎と呼び、炎症が一部に留まっているものを限局性腹膜炎と呼びます。
汎発性腹膜炎は急性腹症の1つであり、迅速な対応が必要とされます。
治療が遅れると敗血症性ショックを引き起こし、命にかかわる状態となります。
汎発性腹膜炎の治療に関しては後述します。
腹膜炎の原因一覧
急性腹膜炎は、上述したように虫垂炎により内臓に穴があくことが原因であったり、その他、臓器の炎症や外傷が原因となることもあります。
その他、癌性腹膜炎は癌が原因となります。
具体的な病名について以下に列挙します。
- 胃、十二指腸潰瘍
- 肝膿腫
- 急性胆嚢炎、急性胆管炎
- 急性膵炎
- 腎盂腎炎
- 急性腸間膜動脈閉塞症
- 大腸憩室炎
- クローン病
- 急性虫垂炎
- 大腸癌
- 複雑性イレウス
- 腸軸捻転症
- 異所性妊娠
- 付属器炎
- 卵巣嚢腫茎捻転
- 大腸癌
- 各種の外傷
以下に、腹膜炎の原因となる病気について、図を用いて一覧で示します。
腹膜炎の症状(痛み以外)
腹膜炎に伴う症状として、代表的なものは痛みです。
腹膜炎による腹痛は激しいです。痛み方としては、上述した反跳痛が代表的です。
ですが、腹膜炎の症状は痛み以外にもあります。
具体的な症状は、
- 発熱
- 悪心(みぞおちや胸のあたりの不快感。吐き気を伴うこともある)
- 嘔吐
- 頻脈
- 浅い呼吸
などがあります。
お腹の痛みに伴って、これらの症状がある場合、腹膜炎の可能性もあります。
専門医を受診して、診察してもらいましょう。
腹膜炎の治療
腹膜炎の中でも、より重度で、腹膜全体に炎症が及ぶ腹膜炎を汎発性腹膜炎と呼びます。
この汎発性腹膜炎では、敗血症性ショックを起こすことがあり、命にかかわる状態に陥る可能性があります。
この場合、治療にかかるまでの時間との勝負になります。
汎発性腹膜炎の治療は、保存療法(手術を行わずに治療する方法)か、緊急手術が行われます。
つまり手術が必要な状態かどうかを、見極める必要があります。
その時に参考となるのは、
- 腹膜炎が、消化管や胆嚢に穴があいたことによるものかどうか
- 筋性防御や反跳痛のような腹膜刺激症状が出るかどうか
- 敗血症性ショックが起こっているかどうか
- レントゲン検査で遊離ガスがあるかどうか
- 腹水がたまっているかどうか
- 血液検査で、貧血や炎症を示す数値が高くなっているかどうか
といった情報を参考にしながら、医師が手術の必要性を判定していきます。
まとめ
腹膜炎による痛みを始めとした症状や、虫垂炎が腹膜炎とどのように関わるのか、について解説してきました。
細菌が腹膜に感染を引き起こすと、重大な病気に繋がります。
素人判断で治療が必要かどうかを考えるのは危険です。
お腹の痛みや吐き気、熱など気になる症状がある場合は、早めに専門医を受診しましょう。
私は最初にみぞおちの真ん中あたりの痛みから始まり、4時間後に激しい腹痛と嘔吐にみまわれ、病院で受診しました。
ですが、そのまま検査入院したのですが、5日目にやっと緊急手術。開腹してみると、虫垂に穴があいて、腹膜炎を起こしていました。術後も腸管癒着症になり、予後は仕事復帰もままならず、辛い毎日です。このサイトを見た時は、自身の病状が全部当てはまっていて、凄いショックでした。なぜ医師は虫垂炎を早く疑わなかったのだろうと…