左の肩に痛みが出る場合、心臓の病気が原因となっている可能性があります。
もちろん肩こりがひどくなって、筋肉を原因とする痛みの場合もあるかもしれませんが、
心臓の病気は、左肩や左腕に関連痛を引き起こすことが多くあります。
関連痛とは、問題が起こっている場所とは違う箇所に痛みが発生することを指します。
これは痛みの神経回路が、混線を起こして発生するものです。
心臓が原因となって起こる関連痛は、左肩や左腕が代表的ですが、顎の下や左の肩甲骨周囲などにも痛みが広がることもあります。
今回は、左肩の痛みを引き起こす心臓の病気として代表的な、心筋梗塞【しんきんこうそく】や狭心症【きょうしんしょう】などの虚血性心疾患【きょけつせいしんしっかん】に的を絞って解説していきます。
もくじ
左肩の激痛 心臓に原因がある?
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをする臓器です。
体の各細胞は血液によって、栄養を受け、老廃物を流しているため、心臓の機能は生命維持に欠かせない働きを持っています。
そのため、心臓がさまざまな病気により本来の機能が発揮できなくなると、即、命に関わる状況になります。
中でも重篤な病気に発展する危険性がある虚血性心疾患は、胸痛を引き起こす心臓病として代表的です。
虚血性心疾患とは、心臓自体を栄養する冠動脈【かんどうみゃく】が何らかの原因で狭くなったり、詰まったりして、心臓を動かす筋肉に栄養が行き渡らず、心筋がダメになってしまう病気を指します。
その虚血性心疾患は、胸痛だけでなく、左の肩や腕に関連痛を引き起こすことが知られています。
ちなみに虚血性心疾患を発症した時の痛みは、圧迫感や締め付けられる感じと表現される痛みです。
虚血性心疾患は、急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定型狭心症)と、冠痙攣性狭心症(異型狭心症)に大別されます。
それぞれ紹介していきます。
左肩に痛みを出す 急性冠症候群
急性冠症候群とは、動脈硬化によって形成されたプラークと呼ばれる、脂質や細胞の病的な塊が崩れ、そこに血栓ができることで、冠動脈が一気に狭まったり、詰まったりする病気のことを指します。
急性冠症候群は、不安定型狭心症と急性心筋梗塞に分けられます。
冠動脈が狭まってしまっていても、不十分ながら血流がある場合は、不安定型狭心症と言います。
下図は冠動脈内に血栓ができた、不安定狭心症の模式図です。
一方で、完全に冠動脈が詰まって、冠動脈の血流がストップしてしまった状態を、急性心筋梗塞と言います。
下図は冠動脈が完全に閉塞した急性心筋梗塞の模式図です。
不安定型狭心症が起った場合の治療は、血液を固まりにくくする薬を飲んだり、狭まっている箇所を広げるカテーテル治療などが選択されます。
急性心筋梗塞の治療も、薬物治療や、カテーテル治療、冠動脈のバイパス術などありますが、急性心筋梗塞の場合は、即、命に関わってくるので、できるだけ早急に治療を行わなければなりません。
このような急性冠症候群を発症した場合、最も多く聞かれる訴えは、胸の痛みですが、左肩や左腕にも痛みが及ぶことが知られています。
このように、病気が起こっている位置とは離れた場所に起こる痛みを、関連痛といいます。
心臓病の関連痛領域はこちらです。
急性冠症候群の危険因子は、糖尿病、高血圧、高齢、男性、喫煙などがあります。
このような危険因子を持った方が、急に胸や左肩の痛みを訴えた場合は、急性冠症候群を疑う必要があります。
左肩に痛みを出す 冠痙攣性狭心症(異型狭心症)
冠痙攣性狭心症【かんけいれんせいきょうしんしょう】とは、冠動脈が一時的に過剰な収縮をおこし、冠動脈の血流を滞らせる病気です。
喫煙者や飲酒習慣のある人に好発し、夜間から早朝の安静時に発症することが特徴です。
冠痙攣性狭心症の症状としては、急性冠症候群と同様に、胸の痛みや左肩の痛みが出ます。
ニトログリセリンなど血管を拡張させる薬を飲むことで、症状が改善しますが、不整脈を伴うと突然死することもあるので、専門医のもとで治療を受ける必要があります。
左肩甲骨や顎の下に痛みが出ることもあるので注意!
ここまでご紹介してきた虚血性心疾患に伴う痛みは、胸や左の肩、腕に出ることが多いです。
教科書通りに心臓の病気の時には胸と左の肩の痛みを訴える人ばかりであれば、医師も診断をつけるのは簡単です。
しかし、関連痛が出る場所には個人差があります。
背中の中央に痛みが出ることもあれば、左の肩甲骨周辺に痛むとや、顎の下に痛みが出ることもあります。
このように関連痛が出現する場所は、人によって微妙に異なってくるため、胸や左肩に痛みがないからといって、虚血性心疾患ではないと言い切ることはできません。
個別性を考えて対応する必要があります。
病院で医師が虚血性心疾患など心臓の病気かどうかを判断するには、画像検査、血液検査、心電図、エコー検査などさまざまな検査結果を加味して判定していきます。
これらは客観的指標となります。
一方で、痛みなど患者本人が訴える症状は、本人にしかわからないものなので、主観的指標となります。
主観的指標には、痛みの他にも注意して聞き取るべきものがあります。
続いて、虚血性心疾患が起きた時に診断の指標となる、胸や左肩の痛み以外の症状について解説していきます。
左肩の痛み以外の心臓病の症状について
虚血性心疾患に伴う症状は痛み以外にもあります。
特に、糖尿病のある人や、高齢者では胸の痛みが全くないにも関わらず、虚血性心疾患を起こしている可能性もあるので、これらの因子を持っている人には、痛み以外の症状も見極める必要があります。
痛み以外の症状として代表的なものは、冷や汗、吐き気、脱力感です。
また、虚血性心疾患による心臓の機能低下により、出現する症状もあります。
代表的なものは、不整脈、心不全、脳梗塞、心破裂、心膜炎などです。
これらを起こすと、重篤な後遺症が残ったり、死に至ることもあります。
その他、心臓疾患の確定診断を行うためには、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、血液検査などが行われます。
まとめ
左肩の痛みと心臓病の関係について、虚血性心疾患中心に解説しました。
心臓の病気で左肩や左腕に痛みが出るのは、関連痛によるものであることがお分かりいただけたと思います。
心臓の病気は、一刻の猶予もありません。
急な胸痛や左肩・腕の痛み、冷や汗、吐き気など虚血性心疾患を疑う症状が起こった場合は、救急外来を受診する必要があります。