急に左下腹部が痛み出したとき、病院に行った方が良いのか、そのまま様子を見ても良いのか判断に迷うことは多いと思います。
腹痛は軽度なものでも、専門医による治療が必要な場合があります。
痛みの原因を判定していくためには、いつから、どんな時に、どのように痛んで、それに伴う症状があるのかといったことを確認していきます。
左下腹部の痛みの原因を考えるためには、
- どこが痛むか
- いつから痛みが出て、どのくらいの時間痛いか
- どんなときに痛むか
- 痛みの種類がどのようなものか(シクシク、ズキズキ、キリキリなど)
- 痛みにともなう症状があるか(発熱、嘔吐、下痢など)
参考)図解入門よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ (How‐nual Visual Guide Book)
痛みの種類はチクチクやズキズキなどと表現されることが多いですが、
病院にかかる時には、刺すような鋭い痛みか鈍い痛みかくらいは答えられるように考えておくと良いでしょう。
また、左下腹部の痛みに伴う症状ですが、
下血(便などと一緒に出血があること)、発熱、嘔吐、吐き気などが代表的ですが、その他にも気になる症状があれば、医師に伝えましょう。
今回は内臓の病気を中心に、左下腹部の痛みの原因について解説していきます。
下腹部には、男女ともに特有の臓器がありますので、性別ごとの左下腹部の痛みの原因についても解説します。
もくじ
左下腹部の痛み チクチク、ズキズキどんな痛み?
一般に内臓痛と呼ばれる、臓器の腫れや腸の過剰な動きが原因となって起こる痛みは、痛みの場所を特定するのが難しく、鈍いような痛みと表現されます。
一方で差し込むような、比較的痛い場所がはっきりしている時には、神経が直接刺激を受けて、痛みが出ていると考えられます。
ここではまずは、左下腹部とはどのような部位のことを指すのか図で確認してきましょう。
上のイラストでいうと⑥の部位が左下腹部と呼ばれるところです。
このイラストを見ても分かる通り、左下腹部には腸があります。
中でも大腸の一部であるS状結腸は左の腰骨のすぐ内側にあります。
S状結腸は便が貯められるところですので、便秘が続いてS状結腸が過度に圧迫を受けると痛みが出てきます。
便秘による左下腹部の痛みについては、後で詳しく解説します。
そして腸のさらに下には、膀胱と女性には子宮、男性には前立腺があります。
下腹部は性別によって臓器が違いますので、当然、痛みの原因も男女特有のものになります。
続いては性別ごとの左下腹部痛の原因について解説していきます。
左下腹部の痛み 女性の場合
左下腹部の痛みで女性特有のものは、子宮に関連するものです。
月経困難症
左下腹部の痛みで代表的なもののうち、最も発生頻度が高いのは生理痛です。
生理痛がひどくなると、月経困難症と呼ばれます。
月経困難症は子宮筋腫や子宮内膜症が原因になり引き起こされるものと、月経時にホルモンの作用によって子宮が過剰に収縮させられることによって起こるものがあります。
このような月経困難症が起こるのは、生理がうまくいっていないことを表します。
妊娠初期
妊娠初期には腹痛を感じることもあります。
特に心配のいらない腹痛もありますが、異常を知らせるサインとしての腹痛もあります。
妊娠の可能性があるときには、産婦人科を受診するようにしましょう。
子宮内膜症
月経困難症を引き起こしうる子宮内膜症は、それ自体も左下腹部痛の原因となります。
子宮内膜とは受精卵が着床し育っていく、いわば受精卵のベッドような役割をします。
人の生殖本能というのは非常に強く、子宮内に内膜を作れない状態の場合、子宮以外の場所に内膜を作ろうとします。
子宮内膜は卵子が受精しなかった場合には、剥がれて体外に排泄されますが、子宮以外の場所にできていると、内膜が剥がれる落ちる際に、その周囲の組織も一緒に剥がれてしまい痛みとなります。
卵巣・卵管の炎症(子宮付属器炎)
卵巣、卵管のことを子宮付属器と呼びます。
これらが細菌に感染すると炎症を起こし、痛みが引き起こされます。これを子宮付属器炎と言います。
細菌感染は性行為や、子宮の腫瘍などが原因になります。その他、不衛生にしていることでも感染のリスクは高まります。
子宮外妊娠
通常、受精卵は子宮に着床しますが、子宮以外の場所に着床してしまうことを子宮外妊娠と言います。
子宮外妊娠が最も起こりやすいのは、卵巣と子宮を結ぶ卵管内です。
卵管が何らかの原因により狭くなっていると、うまく受精卵が通過することができず子宮外妊娠が起こります。
そのまま受精卵が育ってしまうと、流産になったり卵管破裂が起こり、痛みが引き起こされます。
卵巣嚢腫茎捻転(らんそうのうしゅけいねんてん)
卵巣はその位置を保持するために、靭帯で固定されています。
卵巣に腫瘍ができると、卵巣の重量が増し靭帯が卵巣を固定しきれなくなります。
すると卵巣の動きによって靭帯が捻られ、痛みが引き起こされます。
これが左側の卵巣で起これば、左下腹部の痛みとして感じられます。
左下腹部の痛み 男性の場合
左下腹部の痛みの原因になる、男性特有の病気は前立腺炎です。
前立腺炎とは、前立腺が細菌に感染することで発症する病気です。
細菌は尿道から侵入してくることが多いです。
基礎疾患に前立腺肥大や糖尿病があると、発症のリスクが高まるとされています。
排尿時に痛みが起こるのが特徴です。
痛みに伴って頻尿や、下腹部に鈍い痛みを感じることもあります。
左下腹部の痛み 便秘が原因?
すでに上記した通り、左下腹部にはS状結腸があり、ここは一時的に便が溜められる部位となっています。
S状結腸の位置を画像で確認しておきましょう。
健康な人であれば、S状結腸に一定量の便が溜まれば、直腸に便が移動し便意を感じ、排便するようになります。
しかし、便秘がひどくなると何日間分もの便がS状結腸に溜まることになります。
便は次から次へと新しいものができるので、排便が滞るとS状結腸にはどんどん便が溜まっていくことになります。
そうしてS状結腸がパンパンになると、腸や周囲の組織が圧迫を受け、やがて痛みが引き起こされるようになります。
S状結腸があるのは左下腹部ですので、便秘がひどくなると左下腹部の痛みとして感じられるようになるのです。
左下腹部の痛みと下痢があるときに注意する病気
左下腹部の痛みとともに下痢症状があるとき、近年増加傾向にある過敏性腸症候群や、難病指定されている潰瘍性大腸炎など、腸の病気の可能性があります。
潰瘍性大腸炎
国の難病に指定されている病気で、大腸の粘膜に潰瘍やびらん(ただれ)ができる病気です。
20歳代の若者に最も多いですが、50〜60歳代の人にも多い病気です。
腹痛や下痢を繰り返す特徴があります。
ひどくなると血便が出たり、そこから貧血症状を引き起こすこともあります。
治療は薬を使った内科治療が第一選択となります。
この病気の原因ははっきりと分かっていませんが、ストレスが引き金になると言われています。
食生活の乱れも原因として考えられているため、普段の生活では食事を見直すことも大切です。
潰瘍性大腸炎を良くするための食事については、こちらの記事をご参照ください。
過敏性腸症候群
腸に器質的な問題がない(腫瘍があるなど構造的な問題がない)にも関わらず、下痢や便秘、腹痛が繰り返し起こるのが過敏性腸症候群です。
働き盛りの世代に多く、こちらもストレスが1つの引き金になるとされていますが、はっきりとした原因は分かっていません。
治療ではストレスを取り除くために、まずは病気について詳しく説明し不安を取り除くことから始められます。
その後、食事やストレスを溜めすぎない生活について指導が行われ、合わせて薬による治療も行い改善を目指していきます。
過敏性腸症候群は、診断基準がまとめられています。以下に掲載します。
過敏性腸症候群(IBS)の診断基準(RomeⅢ診断基準)
過去3か月間、月3回にわたって腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり、次の2項目以上がある
1.排便によって症状が軽減する
2.発症時に排便頻度の変化がある
3.発症時に便形状(外観)の変化がある6ヶ月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準を満たしていることが必要である
※腹部不快感とは、痛みとは表現されない不快な感覚を意味する
過敏性腸症候群についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
左下腹部の激痛 その他にどのような病気が痛みの原因になる?
続いては男女ともに、左下腹部の痛みの原因になりうる病気について解説していきます。
大腸ガン
食の欧米化に伴い、増加してきているのが大腸ガンです。
女性のガンでは大腸ガンが死因の1位になっており、注意が必要な病気です。
大腸は構造上、右側にある盲腸や上行結腸は内腔が広いため、ガンができても症状に乏しいですが、左側にある下行結腸やS状結腸は内腔が比較的狭いため、ガンができると腹痛が左下腹部に現れやすいです。
大腸ガンによる腹痛以外の症状としては、お腹の張り、血便、便が細くなるなどの症状を伴います。
膀胱炎
膀胱の細菌感染によって引き起こされるのが膀胱炎です。
膀胱炎になると膀胱のある下腹部に痛みが出ます。
ですから、左下腹部の痛みというよりは下腹部中央の痛みであることが多いです。
膀胱炎になると痛み以外に、トイレが近くなったり(頻尿)、血尿、尿が濁るなどの症状が出ます。
膀胱ガン
膀胱ガンの痛みも、膀胱炎の痛みと同様に左下腹部の痛みというよりは、下腹部中央の痛みであることが多いです。
また膀胱ガンでは、ガンにより尿道が圧迫されると、尿の排泄障害が起き、腎臓に尿がたまり背中の痛みになることもあります。
骨盤膿瘍
骨盤の中に膿がたまる病気です。
発熱とともに下腹部に痛みを生じ、その他に下痢や膀胱が刺激されることで頻尿になることもあります。
子宮付属器炎や虫垂炎、腸管の炎症などが原因となります。
まとめ
左下腹部の痛みの原因についてお伝えしてきました。
下腹部の痛みは男性、女性で原因となる病気が異なります。
痛みが出ている人の性別が男女どちらなのかを考えて、原因を探らなければなりません。
また痛みは体からの重要なサインです。
痛みを通して、体の機能がうまく働いていませんよということを教えてくれているのです。
そのサインを無視し続けていると、重大な病気に発展する危険性があります。
過度に我慢することなく、専門医の診察を早めに受けることをお勧めします。