腸から、すべての栄養素は吸収されます。
つまり、体の内と外を分けるのは「腸」と言っても過言ではありません。
「腸」は便通の良し悪しはもちろん、免疫にも関わり全身の調子が左右しています。
腸がうまく働いているかどうかは、「ぜん動運動」によって決まります。
ぜん動運動とは、腸がみずからおこす動きです。
この動きによって、腸の内容物は運ばれていきます。
腸が健康な状態であれば、ぜん動運動が十分におこります。
しかし、腸の状態が悪いとぜん動運動がおこりにくくなるのです。
ぜん動運動がおこりにくくなると、内容物である便が運ばれていきませんので、便秘になりやすいです。
また、腸は全身の免疫力を左右する器官でもあります。
ですから、腸を正常に保っておくことは、便秘を改善するだけでなく、全身の健康にとっても重要なのです。
では、ぜん動運動がおこりにくくなっている人はどのようにすれば良いのでしょうか。
実は、「ぜん動運動」をおこしやすくする方法があります。
それが「腸もみ」です。
そこで今回は、「ぜん動運動」をしっかりおこす「腸もみ」の効果的なやり方についてお伝えしていきます。
もくじ
なぜ、腸もみで「ぜん動運動」がうながされるのか
腸もみについてお伝えする前に、腸について知っておきましょう。
まずは、腸について位置を確認してみます。
下図は小腸です。
続いて大腸です。
「ぜん動運動」は消化管によって、「ぜん動波」がおこることによって引き起こされます。
腸の内容物の後方で腸内の筋が縮んで、内容物を先に送り出す動きが「ぜん動運動」です。
「歯みがき粉を絞り出すときの感じ」とお伝えすると、イメージがわきやすいかもしれません。
図にすると、このようになります。
この「ぜん動運動」は輪筋層【りんきんそう】と縦筋層【じゅうきんそう】という2つの筋肉層の間にある、
筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)によって運動の指示が出されています。
筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)は自律神経である副交感神経と交感神経が網目状に絡み合ってできています。
副交感神経が活発に働くと腸の筋肉はちぢみ、交感神経が働くと腸の筋はゆるみます。
腸の断面図で輪筋層と縦筋層、筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)の位置を確認してみましょう。
「腸もみ」(腹部マッサージ)をすると、筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)が刺激されます。
すると、輪筋層と縦筋層が活動し、ぜん動運動が引き起こされるのです。
続いて「腸もみ」の具体的なやり方についてお伝えしていきます。
腸もみの実際 まずは準備運動から
イメージしやすいように「腸もみ」という言葉を使っていますが、お腹のマッサージと同じものだと考えてください。
腸も筋肉で構成されています。
ですから、手足の筋肉と同じようにマッサージをすることで、状態を改善することができます。
では、腸もみに入る前に、まずはウォーミングアップから始めましょう。
ウォーミングアップをしておくことで、腸もみの効果が高まります。
まずはお腹周りの筋肉をゆるめるための深呼吸とストレッチです。
深呼吸で腸もみの準備運動
①仰向けに寝ます。
②両手足は脱力して自然に伸ばし、楽に呼吸をします。
これを1分程度行いましょう。
③続いて、両膝を立てます。
膝を立てたら、鼻から息を吸います。
吸った空気は、お腹にためるようにイメージしてください。
④いっぱいまで吸ったら、口から息をはきます。
このとき、腹はぺったんこにへこませます。
この呼吸方法は、いわゆる腹式呼吸です。
胸の動きなるべく抑え、お腹の動きによって呼吸をします。
こうすることで、お腹の表層の筋肉をゆるめることができ、このあとに行う、腸もみの刺激が伝わりやすくなります。
腰、背中の筋肉をゆるめる準備運動
①仰向けに寝ます。
②両膝を立てお腹の力を抜きます。
③膝を左右交互にゆっくりと倒します。
筋肉のストレッチが目的なので痛みのない範囲で、ゆっくりと行って下さい。
右に倒して30秒キープ、左に倒して30秒キープといった具合です。
これを2~3往復行います。
こうして、お腹や腰など骨盤まわりの筋肉をゆるませ、腸もみの準備を整えます。
続いては、いよいよ腸もみのやり方についてです。
小腸もみのやり方
腸には小腸と大腸があることは、すでにお伝えしました。
腸はお腹全体にあるので、いっぺんに腸もみをしようとすると無理があります。
ですから、小腸と大腸に分けて腸もみをしていきます。
では、まずは小腸もみのやり方について、解説していきます。
①おへその真上に両手を重ねておきます。(左右どちらの手が上になっても構いません)
②手のひらでお腹を包み、優しく圧迫します。(痛みのない範囲で行ってください)
③手はお腹に密着させたままにします。
手の位置は変えず、時計回りにゆっくりと圧迫を加えていきます。(この時も痛くない程度で)
④ゆったりとしたリズムで行ってください。呼吸はとめず、リラックスして行います。
⑤これを、10周程度行ってください。
以上が小腸もみのやり方です。
続いて、大腸もみのやり方をお伝えしていきます。
便秘の人は特に大切!大腸もみのやり方
①利き手を下にして、画像のように手を組みます(画像は右利きとしています)。
利き手の人差し指から薬指で圧迫を加えていきます。
②大腸もみで押さえるべき場所は7か所あります。
圧迫する場所を、画像で確認しましょう。
③画像で示した7か所のうち、①から順に一か所ずつ、息をはきながら押さえていきます。
便秘の方は、硬さや痛みがある場所が多いかもしれません。
痛みのある場合は、無理に押さえず、さする程度にしましょう。
④一か所あたり10秒程度押さえます。
⑤便秘の方は、⑦のところを重点的に押さえましょう。
⑦のところは、S状結腸といって便がたまりやすいところです。
注意点として、「どこを押しても痛い」と感じられる場合は押す力が強すぎることが多いです。
くれぐれも、痛みの出ない範囲で行ってください。
強すぎる刺激はかえって害になります。
以上が、大腸もみのやり方です。
腸もみのあとは、ふたたび深呼吸をしましょう!
腸もみの実際のやり方について、お分かりいただけたと思います。
腸もみを行ったあとに、準備運動でも行った腹式呼吸を行うと、より腸もみの効果が高まります。
腹式呼吸をすると、横隔膜が上下に大きく動くきます。
この横隔膜の下には、人体最大の臓器である肝臓があります。
肝臓は、重さが1.5㎏程度あります。
腹式呼吸を行うと、横隔膜の動きに合わせて、この大きく重たい肝臓も上下に動きます。
すると、肝臓の下にある腸は圧迫されたり、開放されたりを繰り返します。
この圧迫や開放により腸の血流をよくします。
これにより、腸もみがより効果的になるのです。
便秘改善だけじゃない腸もみの効果
マッサージを受けると気持ちよいですが、腹部マッサージである腸もみを行うと気持ちいい以上の効果が得られます。
まずは筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)が刺激されることで、ぜん動運動が起こりやすくなります。
また、便通がよくなり便秘改善の効果も期待できます。
また腸は全長で7~9m程もあり、小腸を広げるとテニスコート1~2面分の広さになるとも言われています。
それだけ用量の大きいところなので、腸の血流が改善すると全身の血流が改善します。
すると、身体の冷えもよくなりポカポカしてきます。
冷え性の方は腸もみで改善の可能性があります。
また冷えが改善すると全身の代謝も活発になるのでダイエット効果も見込めます。
こんなオマケの効果もあるって素晴らしいですね。
さらに、腸は全身の免疫細胞の8割が集まり、腸管免疫という名前まで与えられています。
体の入り口として門番としての役割を担っているのです。
ですから腸の状態が良くなると有害な細菌やウイルスが体に侵入する前に退治することができるので風邪や感染症にもかかりにくくなります。
「腸もみ」には、このようなさまざまなメリットがあるのです。
まとめ
「便秘解消、免疫力アップ!効果的な腸もみのやり方。」と題してお伝えしてきました。
ウォーミングアップのストレッチ、深呼吸から具体的な小腸もみ、大腸もみのやり方までお分かりいただけましたでしょうか。
栄養を体に取り込み排泄も担う腸は「命の中心」です。
日々働き続ける腸をいたわり身体をマッサージするようにお腹もマッサージ、つまり腸もみをしてあげて下さい。
その効果はきっと思った以上にあると思います。
今回の内容を参考にしてで腸もみを実践してみて下さい。
参考・引用文献
カラー人体解剖学 西村書店