トライツ靭帯【とらいつじんたい】をご存知でしょうか。
靭帯と名前はついていますが、一般的な靭帯とは異なります。
本来、靭帯とは骨と骨を結ぶ組織のことを言いますが、トライツ靭帯は骨にはついておらず、内臓においてその役目が果たされています。
ではトライツ靭帯は、内臓のどこについているかと言うと「小腸」についています。
もう少し具体的に言うと、小腸の十二指腸と空腸の境目にトライツ靭帯が位置しています。
そして、トライツ靭帯の機能としては、小腸が四方八方にズレないようその位置を固定する機能をもっています。
小腸は6~8mほどの長さがある、とても長い臓器です。
それがお腹の中につまっているのです。
もし、小腸がお腹の中で固定されることなくぶらぶらの状態で存在していたら、少し体をひねったり運動をするだけですぐにからまってしまうことでしょう。
そうならないようにお腹のなかには、トライツ靭帯のような組織があります。
トライツ靭帯のおかげで腸がよれることなく活動できているのです。
そこで、今回はトライツ靭帯がどこに位置しているのか解剖図でわかりやすくお伝えし、その働きについても解説していきます。
トライツ靭帯の位置を図でチェック!
まずはトライツ靭帯の位置を解剖図で確認してみましょう。
上図で、赤丸で示してるところにトライツ靭帯はあります。
小腸は十二指腸、空腸、回腸の3つに分けられます。
黄色く示しているところが、十二指腸です。
黄色く示しているところが、空腸です。
黄色く示しているところが、回腸です。
その中でも、トライツ靭帯は十二指腸と空腸の境目に位置しています。
そして、トライツ靭帯のもう一方は、後腹壁【こうふくへき】にくっついています。
後腹壁とは、おなかの中の空間の、背中側のことを言います。
「おなかの中の奥」という方が、わかりやすいでしょうか。
トライツ靭帯はここに、がっちりと固定されており、小腸を支えることができています。
トライツ靭帯の別名、十二指腸提筋【じゅうにしちょうていきん】
トライツ靭帯は別名、十二指腸提筋【じゅうにしちょうていきん】もしくは、十二指腸提靭帯【じゅうにしちょうていじんたい】とも呼ばれます。
実はトライツ靭帯は、その組織内に平滑筋【へいかつきん】という筋肉を含んでいます。
そのために「靭帯」だけなく、「筋」という文字も使われているのです。
ところで、この平滑筋は、主に内臓の筋肉として存在しています。
内臓に筋肉なんてあるの?と疑問思われるかもしれませんが、内臓に筋肉はあります。
有名なところで言えば、心筋【しんきん】とは心臓の筋肉のことで、心臓はこの心筋が働くことでドクドク脈打つことができます。
その他の内臓では、腸もその内容物を運搬するために蠕動運動【ぜんどううんどう】という動きをしており、この時には平滑筋が働きます。
トライツ靭帯とイレウス管
イレウス管とは、腸閉塞などによって腸の内容物が流れていかなくなった場合に、使われる道具です。
イレウス管は、鼻から入れるものと、肛門から入れるものがあります。
鼻から入れた時には、下図のような状態となります。
管を体の中に入れることにより、流れなくなった内容物を排泄させます。
そのとき重要なのが、イレウス管をどこまで入れるかということです。
鼻から入れる場合、トライツ靭帯より奥に管を入れないと、小腸の内容物を排出することができません。
そのため、イレウス管を使うときには、トライツ靭帯の位置を確認しておくことが重要なのです。
下図のようにトライツ靭帯よりも奥にイレウス管を挿入します。
ちなみに、イレウス管は内臓を傷つけないように柔らかい素材でできています。
上図のようにイレウス管の先端にはバルーンがついています。
バルーンの中に空気を入れて膨らませることで、イレウス管が簡単に抜けないように固定することができます。
ですから、少し体を動かしたくらいでは、固定したイレウス管は抜けません。
しかし、内臓は活動するときに動くものです。
特に腸はぜん動運動という動きをさかんに行います。
腸自体の動きによってイレウス管が移動し、抜けてしまう可能性があるのです。
それを防ぐために、上図のように鼻や頬のところでテープを貼りイレウス管が抜けないように固定しているのです。
まとめ
トライツ靭帯の位置や、臨床上の意味合いについて解説してきました。
トライツ靭帯が十二指腸と空腸の境目にあることや、イレウス管を挿入するときの目安になることがお分かりいただけたと思います。
内臓には、常に重力によって下方向への力が働いていたり、体の運動によって外力が加わっています。
特に小腸は可動範囲が大きく、お腹の中での形は人によって大きく違います。
そのため、腸がねじれるなどして、腸閉塞などの病気もおこりやすい部位です。
そんなときにトライツ靭帯や腹膜によって、その位置がズレすぎないようになっています。
このように、さまざまな組織の働きによって人の体は活動できるのです。