「右のわき腹が痛いけど、もしかして肝臓の病気⁉︎」
「そもそも、肝臓って痛くなるの?」
肝臓の位置は右の肋骨あたりです。
肝臓は、人体最大の臓器で、栄養素の代謝、解毒、ホルモン代謝、ビタミンの貯蔵などなど、さまざまな機能があります。
すべて合わせると、なんと500以上もの機能があると言われています。
肝臓は、別名「沈黙の臓器」と言われています。
肝臓は、病気になっても症状が出てきにくいため、このような名前が付けられました。
そんな肝臓も痛みを発することがあります。
心不全や、急性肝炎、腫瘍、脂肪肝、胆汁うっ滞などによって、肝腫大(肝臓が大きくなること)がおこると、肝臓の皮膜が引っ張られます。
それがひどくなると、お腹の張りや痛みとして感じられるようになるのです。
「肝臓のあたりが痛いけど、これは肝臓の痛み?」
「右肩の痛みは肝臓が原因って聞いたことがあるけど、本当?」
という疑問をお持ちの方のために、今回は、肝臓の痛みの原因について解説していきます。
もくじ
肝臓の痛みの原因になる病気とは?
冒頭でもお伝えした通り、肝臓の痛みが引き起こされるのは、
肝腫大(肝臓が大きくなること)によって、肝臓の皮膜が引っ張っられることによるものです。
この肝腫大を引き起こす病気は、多くあります。
ここでは、その例をいくつか挙げて、ご紹介していきます。
心不全
心不全とは、心臓の働きが弱くなって、全身に血液を供給しきれなくなる病気のことです。
心不全になると、血液の流れが滞ってしまうので、全身を巡って、再び心臓にもどってきた血液が、どんどんたまってしまいます。
肝臓を通った血液も、心臓へもどっていこうとするのですが、心不全になっていると、血液が十分に流れいかず、肝臓にたまっていきます。
すると、肝臓の容積が大きくなり、肝腫大にいたってしまうのです。
急性肝炎
急性肝炎の多くは、肝炎ウイルスにかかることが原因となります。
肝炎ウイルスは、A型、B型、C型、D型、E型の5種類がありますが、日本では、A〜C型がほとんどです。
急性肝炎は名前の通り、肝細胞に炎症をおこす病気です。
肝細胞に炎症が起きると、全身のだるさ、黄疸、発熱などの症状とともに、肝腫大が引き起こされます。
アルコール性肝障害
大量のアルコールを、繰り返し飲むことが原因となり引き起こされる肝障害が、アルコール性肝障害です。
女性よりも男性に多い病気で、患者にはアルコール依存症になっている人も多いです。
適切な治療を受けずにいると、肝硬変や肝癌にまで至ります。
腫瘍
肝細胞癌が代表的です。
肝細胞癌のほとんどは、慢性肝炎や肝硬変を経て発症します。
癌などの腫瘍ができると、肝臓の皮膜が引っ張られ、痛みを引き起こすこともあります。
脂肪肝
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰にたまった状態を言います。
脂肪肝は、アルコールの飲み過ぎが原因となるものと、非アルコール性のものがあります。
非アルコール性の脂肪肝は、NAFLD【ナッフルディー】と呼ばれ、これが重症化したものをNASH【ナッシュ】と呼びます。
脂肪肝でも肝腫大が引き起こされ、痛みとなることがあります。
胆汁うっ滞
胆汁の機能は、脂肪の消化、吸収を助ける働きと、肝臓の老廃物を排泄する働きがあります。
胆汁は肝臓で生成される液体で、肝臓から胆のうへと送られ、貯蔵されます。
胆汁うっ滞では、胆汁が肝臓から胆のうへと送られる経路のどこかで、胆汁の流れが障害されています。
その原因は、肝炎や肝硬変など肝臓自体の問題もあれば、胆汁の通り道である胆管に、結石や癌できるなど、肝臓以外の問題によるものもあります。
胆汁が流れていかないと、肝臓にたまったままとなり、肝腫大を引き起こします。
参考書籍)病気がみえる VOL.1 消化器 第五版
肝臓の痛みは、背中、お腹、肩に出る?
ここまでお伝えしてきたものを原因とする、肝臓の痛みは、肝臓が位置するところに出ることもあれば、
関連痛【かんれんつう】と言って、離れた場所に出ることもあります。
肝臓の位置するところに痛みが出れば、肝臓が悪いのかな?
という考えに至りやすいですが、肝臓の関連痛や肩や背中など、まったく違うところに出るので、注意しておかねばなりません。
ここでは、まず肝臓の位置を確認してみましょう。
肝臓は、右の肋骨あたりに位置します。
肝腫大が引き起こされると、肝臓が大きくなり、肋骨下縁から容易に触れられるようになります。
肝臓の痛みでは、この肝臓のあるところが痛みます。
ただし、肝臓の痛みは、肝臓の位置するところではなく、関連痛によって、肩や背中に痛みが出ることもあるので、注意が必要です。
そもそも、関連痛とはどのようなものなのでしょうか。
関連痛とは、強い内臓痛が脊髄内で隣接する神経線維を刺激し、対応する皮膚分節に痛みが投影されること。
引用書籍)病気がみえる VOL.1 消化器 第五版 p.16
つまり、関連痛では、その臓器がある場所とは別の場所に、痛みが現れるということです。
では、肝臓の場合は、どこに現れるのでしょうか。
こちらの図をごらんください。
これは、各臓器の関連痛領域を図にしたものです。
線で示しているところが、肝臓の関連痛が出やすい場所です(関連痛の出る場所は個人差があります)。
その他の臓器の関連痛について詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
参照)内臓からの関連痛について
上図の通り、肝臓の関連痛は
- 右肩
- 右上腹部
- 右背中
に出ます。
ただし、この領域が痛いからといって、それがすぐに関連痛によるものというわけではありません。
痛みの原因は、内臓以外にも、
- 骨・関節の痛み
- 筋肉の痛み
- 神経の痛み
- 精神的なものからくる痛み
などがあります。
肝臓の問題が原因となって痛みが出ているのかどうかは、病院で検査を受けなくてはわかりません。
くれぐれも自己判断はしないようにしてください。
参考書籍)図解入門よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ (How‐nual Visual Guide Book)
肝臓の痛みとアルコールの関係とは?
アルコール性肝障害が、肝腫大を引き起こし、肝臓の痛みの原因となりうることは、上記した通りです。
ここでは、アルコール性肝障害について、もう少し深く掘り下げてみようと思います。
肝障害が進行し続けると、やがて肝硬変【かんこうへん】という状態になります。
肝硬変の原因の多くは、B型、C型肝炎ですが、
それ以外の原因で最も多いのは、アルコール性肝障害によるものです。
アルコール性肝障害とは、5年以上にわたる過剰な飲酒によって、肝障害を引き起こす病気を指します。
- 日本酒で1日に3合以上の飲酒をしている
- 禁酒により肝臓の数値が改善する
- 肝炎ウイルスマーカー、抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体がいずれも陰性であること
これら3つの条件が満たされていると、アルコール性肝障害とされます。
では、なぜアルコールは肝臓によくないのでしょうか。
アルコールを飲むと、胃や上部小腸で吸収されます。
吸収されたもののうち、大部分は腸から肝臓へとつながる門脈【もんみゃく】という血管に入り、肝臓に至ります。
アルコールが肝臓に入ると代謝され、アルコールは分解されます。
ところが、大量のアルコールを代謝したときには、代謝回路に問題が起き、肝細胞に脂肪がたまります。
これによって脂肪肝になったり、ひどくなると肝臓が線維化してしまいます。
この過程で、肝腫大がおこり、肝臓の皮膜が引っ張られることで、肝臓の痛みが発生することがあります。
肝臓と腸は密接な関係がある
肝臓の痛みとアルコールの関係を説明するところでも出てきましたが、肝臓と腸は門脈【もんみゃく】という血管でつながっています。
肝臓と腸が門脈を通じてつながっているのは、免疫機能において重要な意味があります。
腸管免疫【ちょうかんめんえき】という言葉をご存じでしょうか。
腸管容積の25%以上は免疫組織で占められ、全身の免疫組織の5割以上が腸管に集中している。
参考文献)臨床外科 64巻 10号 生体における免疫機能の重要性
このような腸の免疫機能のことを、腸管免疫と呼びます。
腸に免疫機能が充実しているのは、腸が「体の入口」となっているからです。
「体の入口は、口じゃないの」と思われるかもしれません。
しかし、食べ物を食べた時点では、体の中に入ったとは言えません。
腸で吸収してはじめて、体に取り込んだと言えるのです。
その吸収するときに、病原菌が一緒に入ってくるのでは困ります。
ですから、腸に多くの免疫組織を配置することで、全身の健康を保っているのです。
そして、腸と門脈でつながる肝臓にも免疫機の機能があります。
肝臓の免疫機能は、
マクロファージであるkupffer【クッパー】細胞が、異物や有害物を貪食、消化して除去する働きがあります。
参考書籍)病気がみえる VOL.1 消化器 第五版
このように、腸と肝臓で2重の免疫のバリアーを設けることで、病原菌など体に悪い働きをするものを食い止めてくれているのです。
まとめ
肝臓の痛みとその原因について、お伝えしてきました。
肝臓のある場所が痛むこともあれば、関連痛によって、肩や背中が痛むことがあるということが、お分かりいただけたと思います。
肝臓は少し悪くなっても、再生能力があるので、機能を取り戻すこともできる強い臓器です。
しかし、症状が出にくいため、気づいたときには重症化していた、ということも珍しくありません。
健康診断などを定期的に受けて、数値に変化がないか観察するようにしましょう。
異常値が出たときには、甘く見ずに病院を受診するようにしましょう。