今回は聴診器の使い方についてお伝えします。
医療専門職の方以外には少し専門的な内容になりますが、普段知ることのない聴診器の使い方や機能について知ることのできる良い機会と思います。
聴診器は血圧を測る時に使うような安いものから、肺や心臓の音を細かく聞き分けることのできる高価なものまで、種類はさまざまです。
外見は大きな違いがないので、一般の方は違いがわかりにくいと思います。
今度病院に行った時には今回の記事を参考にして、医師や看護師がどのようなタイプの聴診器を使っているか見てみると面白いかもしれませんね。
医療職の方でも聴診器を使うことはあっても、肺や心臓の雑音を聞き取れない、あるいは苦手に感じている人も多いのではないでしょうか。
呼吸音ひとつとっても、副雑音は数種類あるので、覚えるだけでも大変ですよね。
しかし、聴診器をうまく使うことによって視診や触診では知ることのできない肺や心臓のわずかな変化を評価できます。
聴診器は正しく使えば、強い味方になってくれる道具です。
そこで今回は、聴診器の種類や正しい使い方、著者も使っているリットマンの利点について解説していきます。
聴診器の使い方
まずは、聴診器各部位の名称を確認しておきましょう。
イヤーチップを耳に入れ、チェストピースと呼ばれるところを患者さんに当てて、集めた音をゴム管を通して聴きとる仕組みになっています。
続いて聴診器の種類です。
聴診器には膜型とベル型があります。
膜型は下図で示したもので、文字どおり膜が張られており、この面を患者さんに当てて音を聴きます。
この膜面のことをダイアフラムともいいます。
膜型の聴診器は、膜によって低音域がカットされます。そのため呼吸音など高い音を聴きとるのに適しています。
一方、ベル型は心音など低い音を聴きとるのに適しています。
最近は、サスペンデッドダイアフラムというシステムを導入している聴診器もあり、これは聴診器を押し当てる圧によってベル型にも膜型にもなる優れものの聴診器です。
サスペンデッドダイアフラムについては、後ほど詳しく説明します。
聴診器の種類にはシングルタイプとダブルタイプがあります。
シングルタイプは音を聴くところが1つだけのものを指します。
こちらがシングルタイプです。
シングルタイプは厚みが比較的薄いので、ベッドに寝ている人の背中側の音を聞くときには重宝します。
ダブルタイプは、ベル型と膜型が両面に配置されているので、心音と呼吸音を聴き分けられることができ、1つの聴診器で2つの役割があります。
こちらがダブルタイプです。
ダブルタイプを使用するときには、ゴム管をねじって聴診面を変えなければなりません。
下図のようにシャフトのところをねじって、向きを変えて聴診するようにしましょう。
前述したサスペンデッドダイアフラムのある聴診器では、シングルタイプでベル型、膜型の機能が使えるので、薄型でありながら2つの役割があります。
そういったことから最近は、サスペンデッドダイアフラムのついたシングルタイプの聴診器を持っている人が多いですね。
聴診器のおすすめはリットマン サスペンデッドダイアフラムは画期的
聴診が下手で自信がないという人ほど性能の良い(=高価な)聴診器を使うべきです。
なぜなら、性能の良い聴診器は多少当て方が下手でも音を拾ってくれます。
特に最初のうちは、雑音を聞き分けることに苦労すると思いますので、クリアな音で聴いていないと正常か異常かの区別がつきません。
そのような状況では、いくらたくさんの患者さんの肺音や心音を聞いても技術は一向に上達しません。
ですから、聴診に自信がないのであれば勉強のためと思って、高価な聴診器を購入しましょう。
聴診器の中でもおすすめなのは、リットマンです。
聴診器を購入しようと思われている方は、一度は目にしたり聞いたりしたことがあるのではないでしょうか。
著者も愛用の聴診器はリットマンです。
一度使い出すと、リットマン以外の聴診器を使おうと思えなくなるほど、優秀な聴診器です。
リットマンの歴史は古く、聴診器を販売し始めたのは1967年からです。
リットマンと血圧測定に使うような聴診器を使い比べてみると、すぐに分かりますが音の聴き取りやすさには雲泥の差があります。
そしてリットマン聴診器の大きな特徴は、サスペンデッドダイアフラムというシステムにあります。(リットマンの聴診器でも一部のものには、サスペンデッドダイアフラムが採用されていません)
サスペンデッドダイアフラムとは、聴診器を当てる時の圧を変えるだけで、心音などの低音域と呼吸音などの高音域を聴き分けることができる機能のことです。
ですから呼吸音を聞きたい時には、強めに押し当てると呼吸音が聴き取りやすくなり、反対に心音を聴きたい時には軽く当てると聴きとりやすいです。
このサスペンデッドダイアフラムの仕組みはこのようになっています。
左肺の呼吸音の聴診をしようと思うと、どうしても心音が入り込んで聞き取りにくくなりますが、強めに押し当てることで呼吸音が選択されて大きく聞こえるようになります。
このような時に、サスペンデッドダイアフラムの機能が生きます。
ただし、心音が完全に聞こえなくなるという訳ではないので、ある程度の聴診技術は必要です。
またベッド上生活をされているような方は、下側肺障害を引き起こしやすいですが、ベッドに寝たままで聴診をする時には、聴診器がベッドと体に挟まれて聴診器を当てる圧が強くなるので、自然とサスペンデッドダイアフラムの機能が生きて聴診しやすくなります。
しかし、サスペンデッドダイアフラムの機能を過信するのはよくありません。
痩せ方の人で、肋骨が出ているような人は胸の聴診をしようとすると、肋骨にダイアフラムが当たってしまい強く当てているつもりがなくても、圧が強くなり低音域、つまり心音が聞き取りにくくなることがあります。
このような場合もあることを考慮して、リットマンの製品にはベル型の聴診器もラインナップされているのだと思います。
また聴診器を強く当てづらい小児用の聴診器もサスペンデッドダイアフラムを採用せず、ベル型と膜型を両面に配しているものもあります。
サスペンデッドダイアフラムがあるから、ベル型の聴診器はお払い箱というわけではなく、得意な分野がそれぞれのタイプの聴診器にあるということですね。
聴診器の持ち方、当て方
まずは聴診器の装着方法についてです。
イヤーチップの向きは下図のように、カタカナのハの字になるようにします。
これは耳の穴が顔の方に向かっているためで、この向きでイヤーチップを耳に入れます。
この時、ダブルタイプの聴診器では当てたい側を患者さんに向けた時に、ゴム管がねじれていないか確認します。
ねじれている時は、シャフトを回して調節しましょう。
イヤーチップを耳に入れたら、チェストピースを持ちます。
聴診器の持ち方には、かぶせ法とはさみ法があります。
かぶせ法では、密着度を高くして呼吸音などを聴き取りやすくできます。
かぶせ法では下図のように持ちます。
はさみ法では、聴診器を当てる圧を調整しやすいです。
サスペンデッドダイアフラム機能が付いている聴診器を使用する時には適した持ち方です。
はさみ法では下図のように持ちます。
いよいよ聴診器を患者さんに当てますが、その前に聴診器がしっかり機能しているか確認しておきましょう。
音が聞き取れるか確認するためには、息を吹きかけることが一般的です。
聴診器をこする方法でも問題ありません。
しっかり音が伝わってきていれば良いです。
しかし、聴診器をトントン叩いて音が出ているか確認するのはやめましょう。
かなり大きな音が響くので、耳を悪くしてしまわないように注意しなければなりません。
続いて聴診器の当て方についてです。
聴診器が冷えていると患者さんはびっくりしてしまうので、手で温めてから患者さんに当てましょう。
聴診器は肌に直接当てなければなりません。
患者さんにしっかり説明をして、同意を得た上で聴診部位を露出させましょう。
衣服の上からだとどうしても雑音が入り込んでしまいます。
ただしベッド上生活をしている方の背中側の呼吸音などを聞くときは、やむを得ない場合もあります。
臨機応変に対応しましょう。
うまく聴診するためには、どれだけ聴診器を密着させられるかということがポイントになります。
うまく当たっていないと聴きとれるものも、聴こえなくなってしまいます。
ですが最近の聴診器は性能が良く、聴診器の端が接触しているだけでもうまく聴きとれることもあります。(ただし高価なものに限る)
やはり慣れないうちは、性能の良い聴診器を使った方が良いでしょう。
筆者が使っているのは、こちらのモデルです。
腸の聴診方法
お腹の中は目で見ることができないので、急に腹痛などを訴えらえると心配になることも多いと思います。
そんな時には、聴診器を使って腸を始めとしたお腹の状態を知るとアセスメントの一助となります。
まずは患者さんに仰向けに寝てもらい、安静にします。
聴診器を右手で扱う人は、患者さんの右側に立って右腹部に聴診器を当てます。
反対に聴診器を左手で扱う人は、患者さんの左側に立って左腹部に聴診器を当てます。
こうすることで、患者さんの表情の変化を見ながら聴診することができます。
聴診中は声が聞こえにくくなるので、視覚で患者さんの状態が確認できるようにしましょう。
下図の丸印の辺りに聴診器を当てましょう。
腹部を聴診する場合は、聴診器をあちこち当てる必要はありません。
なぜなら、腹部は肺のように区画ごとに別れておらず、1つの袋状になっているので1箇所の聴診をするだけで十分です。
気をつけるのは、1度聴いて問題なければそれで良しとするのではなく、一定の時間ごとに確認していくことです。
1度目は問題なくても、その後変化が起きている可能性があるからです。
お腹の聴診音とともに、腹痛や嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状が出ていないかということも併せて確認しましょう。
お腹の聴診は1分間ほど行います。
正常の場合、1分間に5回〜15回ほどグルグルという音が聴こえます。
グルグルグルと正常よりもグル音が多く聞かれる場合は、胃腸の動きが活発になりすぎており、胃腸炎などが疑われます。
反対に音が聴こえなかったり、ピン、ピンというような金属音が聞こえる場合は、腸閉塞が起こっている可能性があるので注意が必要です。
肺の聴診方法
続いて、肺の聴診についてお伝えしていきます。
呼吸器の異常を早期に発見するためには、各肺葉の位置に聴診器を当てて、聴き分けなければなりません。
チェストピースは下図の順番で当てていきます。
特にベッド上生活が長い人では、下側肺障害を引き起こしやすいので、上図で⑤、⑥の部位は必ず聴診しましょう。
呼吸音に限りませんが、聴診をする時に一番大切なのは、正常の呼吸音を知っておくことです。
なぜなら正常を知らない人は、異常を聴き分けることができないからです。
通常、中枢側の呼吸音は吸気でも呼気でも聴くことができますが、末梢では吸気のみが聞こえて呼気はほとんど聴こえないことが普通です。
もしも末梢の肺で呼気音が聞こえる場合は、中枢の呼吸音が末梢まで響いて聴こえていると考えられます。
このような場合は、胸水や肺水腫など水がたまる病気が起っている可能性があります。
このように正常を知っておけば、異常が分かります。
何かがおかしいということが分かっていれば、先輩看護師や医師に相談することができます。
ですからまずは、正常を知るために多くの患者さんの呼吸音を聴いていきましょう。
肺の副雑音について紹介しておきます。
肺の副雑音というと種類がたくさんあって分からない、覚えられないと感じている人もいるかもしれませんが、実際には4つしかありません。
まとめて覚えておきましょう。
・笛声音(てきせいおん)
笛を吹くように高い音。「ピーピー」と聴こえる。喘息で期間が狭まった時や、痰などで気道が大きく狭窄した時に発生する音です。
・いびき音
名前の通りいびきのような音が聴こえます。
いびきは舌が喉の方に落ちることで気道を狭まったところに、無理やり空気が通過しようとする時に出る音です。
いびき音も気道の一部が閉塞したところを空気が通過しようとする時に、発生します。
笛声音になるかいびき音になるかは、気道の閉塞具合に左右されます。大きく狭窄されれば笛声音、気道の一部が狭くなった程度であれば、いびき音などです。
・捻髪音(ねんぱつおん)
髪をねじったときなどに「パリパリ」という乾いた音がしますが、それに似た音です。
無気肺など肺胞が潰れてしまう病気になると、空気が入ってきと時に肺胞が膨らみます。
その時に聴こえる音が捻髪音です。
紙風船を一気に膨らませるとパリッという音がしますが、それと同じようにな原理です。
・水泡音(すいほうおん)
「ブクブク」という音がします。
この音は水っぽい痰などがたまっている時にする音です。
まとめ
聴診器の使い方やおすすめの聴診器について解説してきました。
聴診技術は苦手にしている人も多いですが、一度身につけておくとアセスメントをするのに非常に役立ちます。
こういった技術はやらないと上手くなりません。
食わず嫌いせずに、聴診していくことを習慣化して見てください。
いつも聴くようにしていれば、少しずつ音を聴き分けられるようになっていきます。
またリットマンの聴診器はカラーバリエーションが豊富で、自分の名前を印字するサービスもあります。
お気に入りの1本を探す、聴診器選びも楽しいと思います。
まずは聴診器選びから入ってみるのも良いかもしれませんね。