右下腹部の痛みは軽いものでも、治療が必要な病気が隠れていることもあります。
右下腹部の痛みの原因を探っていくためには、
- どこが痛むか
- いつから痛みが出て、どのくらいの時間痛いか
- どんなときに痛むか
- 痛みの種類がどのようなものか(シクシク、ズキズキ、キリキリなど)
- 痛みにともなう症状があるか(発熱、嘔吐、下痢など)
参考)図解入門よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ (How‐nual Visual Guide Book)
といった情報が必要です。
もし病院にかかるときには、このような情報を事前に覚えておいたり、メモしておくことで診察がスムーズに行えます。
今回は、右下腹部の痛みを引き起こす原因について解説していきます。
腹痛の特徴について
まずは内臓の位置について図で確認しておきましょう。
腹痛の原因は、その近くにある臓器が関係していることが多いです。
つまり、右下腹部の痛みは、右下腹部周辺の臓器が原因となっていることが多いということです。
ただし、関連痛といって痛みの原因が離れている場合もあります。
代表的なものに心筋梗塞、胸膜炎、心膜炎、鉛中毒、ポリフィリン症などがあり、腹腔外の臓器や全身疾患が原因となります。
腹痛は痛みの場所がはっきりしないものもあります。これを内臓痛と呼び、臓器の腫れ、腸管の状態に影響をうけ、交感神経が興奮することで起こります。
このときの痛みはシクシク、キリキリ、重たい感じなど表現のされ方はさまざまです。
これに比べて、右下腹部の痛みといったように痛む場所が特定される場合は、
腸間膜や腹膜にある脊髄性知覚神経が炎症などを原因として、物理的、化学的な刺激を受けていることが考えられます。
このような限局した痛みを体性痛と呼びます。
右下腹部が痛い そこはどんな臓器がある?
では右下腹部にはどのような臓器があるのでしょうか。
まずは右下腹部の位置を図で確認しておきましょう。
こちらは腹部を7つに区切った図です。
このうち④のところが右下腹部と呼ばれる部位です。
図を見ても分かる通り、ここには腸があります。
腸は小腸と大腸があります。腸について詳しく図で見てみましょう。
こちらが小腸です。
こちらが大腸です。
右下腹部には、小腸から大腸に移行する回盲部、そして大腸の始まりの盲腸があります。
ですから、右下腹部の痛みは、腸の病気が原因になっていることが、まずは疑われます。
そして、下腹部には男女特有の臓器があります。
そのため、性別によって痛みの原因も違います。
以下、性別ごとに右下腹部痛の原因となる病気について解説し、その後、男女共通の原因について解説します。
右下腹部の痛み 女性編
まずは女性に右下腹部痛が出た場合の原因について、解説していきます。
右下腹部の痛みの原因 膀胱炎
膀胱炎は膀胱が細菌に感染した結果
- 頻尿(トイレにたびたび行きたくなる)
- 残尿感(おしっこが出しきれていない感じがする)
- 排尿後の痛みがある
- 尿の色が変色する(白濁や、血液が混ざる)
といった症状が出ます。
女性は男性に比べ、尿道が短いため細菌が膀胱内まで入りやすいのです。
そのため女性は膀胱炎を発症しやすいです。
膀胱炎を放置しておくと、菌が腎臓にまで達し、腎臓も炎症を起こしてしまうことになります。
そうなると治療にも時間がかかります。
予防法としては、おしっこは我慢せずに定期的にトイレに行くことです。
右下腹部の痛みの原因 生理前に起こる月経困難症 月経前症候群(PMS)
右下腹部の痛みが生理前、あるいは生理中など生理周期に合わせて起こる場合は、月経困難症が原因の可能性もあります。
月経困難症には、機能性月経困難症と器質性月経困難症があります。
機能性月経困難症は、プロスタグランジンによる月経時の子宮収縮が、過剰に引き起こされるために発生します。
一方、器質性月経困難症は、子宮の構造上の問題によって引き起こされる病気のことです。
具体的な病名としては、子宮筋腫、子宮内膜症などがあります。
腹部の痛み以外の症状として、頭痛、発熱、腰痛、吐き気、嘔吐など出ることがあります。
右下腹部の痛みの原因 子宮内膜症
子宮内膜症は子宮以外の場所に子宮内膜ができてしまう病気です。
子宮内膜は、受精卵にとってベッドの役割なる場所です。
人の生殖能力は非常に強いため、子宮の状態が良くない場合は、子宮以外のところに内膜を作ろうとします。
子宮の状態が悪い方は子宮の上にある臓器である、腸や肝臓の状態も合わせて良くないことが多いですので、まずはこれらの臓器の状態を改善することが必要です。
右下腹部の痛みの原因 卵巣腫瘍
卵巣腫瘍は初期には気付きにくいですが、腫瘍が5cm以上になると卵巣を繋ぎとめている靭帯が、腫瘍の重さによってねじられ、卵巣への血流が阻害されることで激しい痛みを起こします。
卵巣は左右に1つずつありますので、右の卵巣でこのような状態が起これば、右下腹部痛として感じられます。
この場合、手術が必要になることもありますので、早急に専門医への受診が必要です。
右下腹部の痛みの原因 子宮外妊娠
正常な場合、卵子は受精してから1週間後程度には子宮に着床しますが、子宮以外の場所に着床し、発育してしまうことを子宮外妊娠と言います。
子宮以外の場所では、受精卵の正常な発育はできないため、卵管流産や卵管破裂を起こす危険性があります。
卵管流産でも卵管破裂でも非常に強い痛みを伴いますが、特に卵管破裂の場合、命の危険性もあるため救急受診する必要があります。
右下腹部の痛みの原因 卵巣・卵管炎 骨盤腹膜炎
卵巣、卵管が細菌感染すると、卵巣・卵管炎が起こり、それが骨盤腹膜に及ぶと、骨盤腹膜炎を起こします。
骨盤腹膜炎の特徴は、お腹を押して離すときに痛むことです。
細菌感染の原因はクラミジアや淋菌、大腸菌、ブドウ球菌などです。
きちんとした治療をおしておかないと、将来的に不妊症や、子宮外妊娠を起こしやすくなります。
右下腹部の痛み 男性編
続いて男性に右下腹部痛が出た場合の原因について、解説していきます。
前立腺炎
前立腺炎は前立腺が細菌に感染して起こる病気です。
細菌は尿道から侵入してくることが多く、基礎疾患に糖尿病や前立腺肥大があると発症しやすくなります。
主な症状として、排尿時の痛み、頻尿、発熱があります。
前立腺が炎症により腫れると、尿道を圧迫し、残尿感や排尿時の違和感、下腹部の痛みに繋がります。
膀胱癌
膀胱癌は男性の方が女性の3倍起こりやすいです。
初期症状は血尿が出ることくらいですが、進行するにつれ、膀胱炎のような症状である残尿感、頻尿、排尿時痛などが出てきます。
癌により尿道への尿の流れが悪くなると、腎臓にも異常をきたし、背中の痛みが感じられることもあります。
右下腹部の痛みの原因 鈍痛は内臓の痛み 男女共通の病気
ではこからは男女共通の右下腹部痛の原因となる病気について解説していきます。
まず鈍い痛みである、いわゆる鈍痛(どんつう)は内臓の痛みであることが多いです。
ここでは右下腹部の痛みの原因として、虫垂炎、感染性腸炎、大腸癌、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患をご紹介します。
右下腹部の痛みの原因 押すと痛いのは虫垂炎
虫垂炎は食べ物のカスやリンパ腺の腫れ、腫瘍、噴石などにより虫垂が閉塞し、中で細菌が繁殖してしまうために起こる病気です。
では、虫垂の位置を確認しておきましょう。
赤丸で囲ったところが、盲腸と虫垂です。
虫垂は、盲腸から尻尾のように生えているところです。
虫垂には免役機能がありますが、構造上詰まりやすく炎症を起こしやすい場所です。
どの年代の人にも発症する可能性はありますが、特に10~20歳代に好発します。
痛みは最初、みぞおちの周囲に出ることが多く、食欲不振や吐き気、嘔吐などの症状も現れます。
この段階では右下腹部の痛みはまだ出ないことが多いです。
みぞおちの痛みが出てから数時間すると、徐々に右下腹部に痛みが移動してきます。
虫垂炎では、圧痛点の有無が診断に用いられます。
圧痛点とは押した時に痛みを起こす場所のことで、虫垂炎ではMcBurney(マックバーニー)点が有名です。
マックバーニー点はちょうど虫垂の付着部に位置し、体表から見ると、右上前腸骨棘とへそを結ぶ線の外側1/3の場所になります。
画像で確認してみましょう。
※上前腸骨棘とはベルトをひっかける腰骨のことです。
虫垂炎の治療には、虫垂を手術で取り除く外科的治療と、抗菌薬を用いたり絶食をする保存的治療があります。
右下腹部の痛みの原因 感染性腸炎
感染性腸炎は、腹痛の他に下痢、嘔吐、発熱などを伴います。
原因の多くは、感染者の嘔吐物や便、それらに汚染された飲食物からの感染です。
細菌感染とウイルス感染に大別されます。
細菌感染はさらに感染型と毒素型、その両方の特徴を持った中間型があります。
感染型は、腸内で細菌が増殖して発症し、感染から発症まで時間がかかります。原因菌には、サルモネラ菌やカンピロバクターなどがあります。
感染した菌によってはギランバレー症候群などの神経障害を起こすこともあり、この場合、神経性の痛みであるチクチクした痛みを感じることもあります。
毒素型は、細菌から発生する毒素によって発症するもので、最近の付着した物を食べてから、2~3時間で発症します。代表的なものにボツリヌス菌やブドウ球菌などがあります。
中間型で代表的なものの中で有名なのが、O157です。O157加熱に弱い菌ですので、調理時にしっかり火を通すといった対応が可能です。
ウイルス感染で代表的なものには、ノロウイルスがあります。
毎年冬になると、感染者が増加数する病気で名前を着たことがある方も多いと思います。
生牡蠣などからの感染が代表的で、吐物や便を介して感染することもあります。
ノロウイルスは通常のアルコール消毒では死滅しないので、専用の消毒液を用いる必要があります。
小児に多いのはロタウイルスです。
この場合、下痢便で色が白いうんちが出ます。
ロタウイルスには強い感染力があり、こちらも秋から冬に好発します。
ロタウイルスは胃腸炎を引き起こすことで、胆汁の分泌不足が起こり、うんちが白くます。
ロタウイルス感染時の便は「米のとぎ汁」と表現されることもあり、小児がこのような便をした場合は注意が必要です。
右下腹部の痛みの原因 大腸癌
大腸癌は大腸粘膜から生じる悪性腫瘍で50~70歳代の人に好発します。
部位別に分けると盲腸癌、結腸癌、直腸癌の3つに分けられ、S状結腸や直腸での発生頻度が高いです。
右下腹部には盲腸や上行結腸がありますが、ここは腸管内腔が広く、内容物もまだ液状であるため癌による通過障害が出にくいです。
そのため症状が出にくく、癌が進行してから気付くことが多いです。
大腸癌では腸からの出血を伴うため、健康診断などで便潜血検査を受けておくと、早期発見に役立ちます。
最近は病院に行かなくても、家庭で便潜血検査ができます。こちらをご参照ください。
好発部位であるS状結腸や、直腸では内容物が固形で、肛門に近いことから、
便性の変化(血便、便がひょろひょろ長い)や、便秘によって比較的早期に気づけることが多いです。
トイレでは便をチェックして、これらの変化を見逃さないようにしましょう。
大腸癌は女性の癌で死因1位となっている病気ですので、定期的に健康診断を受けることも大切です。
大腸癌は便が溜めるS状結腸や直腸に多いことから、便秘との関連性を指摘する声もあります。
大腸癌と便秘の関係性については、こちらの記事をご参照ください。
右下腹部の痛みの原因 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は下痢や便秘、腹痛といった消化器症症状があるのにもかかわらず、その症状の原因となる器質的障害がないものを指します。
過敏性腸症候群は20~40歳代の働き盛りの人に多く、一説によると日本人の9~22%が過敏性腸症候群と考えられています。
症状別に3種類に分けられます。
下痢型、便秘型、混合型と3種類があります。
①下痢型:硬い便またはコロコロした便が25%未満で、やわらかい便、または水っぽい便が25%以上
②便秘型:硬い便またはコロコロした便が25%以上あり、やわらかい便または水っぽい便が25%未満
③混合型:硬い便またはコロコロした便が25%以上あり、やわらかい便または水っぽい便が25%以上
参考書籍)臨床医のための慢性便秘マネジメントの必須知識
過敏性症候群は、その型によって症状の出方はさまざまです。
過敏性腸症候群の診断にはRomeⅢ(ローマスリー)の診断基準が用いられることが多いです。
以下にご説明します。
過去3ヶ月間のうち1か月間に3日以上繰り返す腹痛、あるいは腹部不快感を認め以下の3項目中の2項目以上をともなう
①排便により軽快する
②排便頻度の変化をともなう
③便形状(便外観)の変化をともなう
※6ヶ月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準を満たしていること。
参考書籍)臨床医のための慢性便秘マネジメントの必須知識
過敏性腸症候群の原因は、
- 消化管知覚異常
- 消化管運動異常
- 知覚に関する中枢神経の機能異常
- 乳糖
- 胆汁酸
- 単鎖脂肪酸などによる刺激に対する腸管の過剰反応
- 自律神経機能異常
- 胃腸炎後の免疫異常
などが考えられます。
その根本原因としては、ストレスや社会環境などからくる心理的要素との関連性が取りざたされており、薬物治療に加え、心理的なサポートや生活習慣の改善がその治療法になります。
過敏性腸症候群についてはこちらの記事もご参照ください。
右下腹部の痛みの原因 炎症性腸疾患
炎症性腸疾患で代表的なものに、潰瘍性大腸炎やクローン病などがあります。
潰瘍性大腸炎は、10歳代後半から30歳代前半の若年層に発症することが多く、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができるものをいいます。
潰瘍性大腸炎は直腸から始まり、連続性に広がっていきます。
病変の広がり方によって分類され、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分類されます。
病変の広がり方による分類を画像で確認してみましょう。赤色のところが炎症が起きている部位です。
直腸炎型
左側大腸炎型
全大腸炎型
右下腹部周辺で炎症が起きるのは全大腸炎型ですから、ここまで進行すると右下腹部にも痛みを生じると考えられます。
潰瘍性大腸炎は再燃と寛解を繰り返すため、少し良くなったからと言って放っておいてはいけません。専門医の元での治療が必要です。
潰瘍性大腸炎についてこちらの記事でも詳しくご説明しています。
参照)潰瘍性大腸炎と食事
クローン病は、10歳代後半から20歳代に多い病気で、こちらも若年者に好発する炎症性疾患です。
こちらは潰瘍性大腸炎と違い、消化管のどこにでも起こる可能性があります。
しかし、好発部位は、右下腹部にある回盲部であり、右下腹部の痛みにつながりやすい病気です。
炎症は非連続的に起こり、痛みに伴って、下痢、発熱、体重減少、肛門部病変なども起こります。
潰瘍性大腸炎と同様に再燃と寛解を繰り返します。
まとめ
右下腹部の痛みの原因について、解剖学的に原因となる臓器が腸であることや、そこで起こる病気についてお伝えしてきました。
痛みは本来、体からのSOSのサインです。
痛み止めでごまかしたりせず、しっかり原因を考えてみましょう。
痛みとともに下痢症状がある場合も、安易に下痢染を飲むのは良くありません。
その下痢も必要性があって起こっているからです。
安易に対処療法を行うのではなく、専門医にかかって診断、治療を受けるようにしてください。