消化に関わる器官のことを消化管と言います。
管【くだ】という字が使われている通り、消化管は1本の管のようになっています。
ところで、消化に関わる器官と聞いて、そもそも消化するってどういうこと?と疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。
なんとなくのイメージはわかっていても、詳しくはわからないという方が多いと思います。
消化管の始まりは口です。
口から食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸
という順番でつながっています。
これらの長さをすべて合わせると、全長で10m前後となります。
主に胃や十二指腸で消化が行われ、空腸、回腸で吸収、続く大腸で排泄の準備がすすめられます。
と、文字で見てもイマイチわかりづらいですね。
人が生きていくためには「食べて出すこと」がまず第一に大切ですが、消化管はそのためにある器官です。
ですから、命の源となるのが消化管と言えます。
そんな消化管について、解剖図を見ながら長さや各臓器の順番がどうなっているのか、詳しくお伝えしますので読み進めてみてください。
消化管の機能
まずは消化管全体の解剖図を見てみましょう。
この解剖図は小学校の理科の教室などで一度は 目にしたことがあるかもしれません。
しかし、これを見ただけでは消化管全体の構造を詳しく知ることはできません。
続いては、消化管それぞれの器官について詳しく解説していきます。
実際に食べたものが運ばれていく順番に沿って、構造や機能についてお伝えしていきます。
口の構造と機能
口はみなさんご存知の通り、食べ物を噛むところです。
噛むことを専門的に言うと「咀嚼【そしゃく】」という言葉になります。
食べ物を噛むと、当然のことですが細かくなっていきます。
これは消化の第一段階とも言えます。
食べ物を小さく噛み砕くことで、そのあとに続く胃や腸での消化が行いやすくなります。
反対によく噛まずに飲み込むことを続けていると、胃や腸に負担がかかりやすくなり内臓の負担となりますので、食べ物はよく噛むことが大切です。
そして、噛むことによって唾液が分泌されます。
唾液は1日あたり、1〜1.5ℓもの量が分泌するとされています。
唾液によって飲み込みがスムーズになるとともに、消化も行われます。
唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれているのですが、これはご飯などの炭水化物に含まれているマルトースをデキストリンに分解します。
消化というと胃や腸の仕事というイメージがありますが、実は口の中でも噛むことや唾液によって、消化が行われているのです。
続いて、口の構造についても見ていきましょう。
口の奥の方には口蓋垂【こうがいすい】が見えますね。
これって何のためにあるかご存知ですか?
口蓋垂は軟口蓋【なんこうがい】の先端周囲のことなのですが、この軟口蓋は食べ物を飲み込むときに間違って鼻の方へ行かないようにフタをする役割があります。
軟口蓋の他にも喉頭蓋【こうとうがい】はのどの奥にあり、飲み込むときに食べ物が気管に入らないようにフタをしてくれています。
喉頭蓋がうまく働かないと、食べ物が気管に入りムセるようになります。
軟口蓋や喉頭蓋がうまく働くことによって、食べ物が口から食道へと運ばれていくのです。
食道の機能
続いて、食道の解剖図を画像で見てみましょう(食道だけでは位置が把握しづらいので胃腸も一緒に載せてます)。
食道は成人で25cm程度の長さがあり、筋肉でできています。
筋肉と言っても手足の筋肉のように意識的に動かすことはできません。
食道は消化管の一部ですが、消化の機能はなく、口から胃までの通り道に過ぎません。
しかし、液体から固体まで、そして柔らかいものから硬いものまで様々な食べ物が通っていくところですので、頑丈に作られています。
食道は4つの層で構成されています。
外側から外膜、固有筋層、粘膜下層、粘膜となっています。
一番内側で直接食べ物と接触する粘膜は重層扁平上皮細胞【じゅうそうへんぺいじょうひさいぼう】と呼ばれる強い組織で作られています。
食道は感覚が鈍く、熱いものを食べたり飲んだりしてもあまり熱いと感じないようにできています。
食道の直径は1.5cmほどで、蠕動運動と呼ばれる運動を行って食べ物を運んでいきます。
蠕動運動は、歯磨き粉を絞り出すような動きというと分かりやすいでしょうか。
食堂を抜けると、次は胃です。
胃の機能
胃の解剖図を画像で確認してみましょう。
胃はみなさんご存知の通り、食べ物を消化するところです。
pH1〜2のとても強い酸で溶かしていくのですが、いくら強酸といっても溶かすのにはそれなりに時間がかかります。
なので、胃は袋状になっており中に食べ物が貯められる構造になっています。
胃の容量は成人で1.5ℓ程度です。
胃酸によって食べ物は溶かされますが、胃自体が溶けてしまわないのは粘液で保護されているためです。
胃の入り口である噴門部【ふんもんぶ】から出口である幽門部【ゆうもんぶ】までは粘液で覆われているため通常は胃が溶かされることはありません。
しかし、粘液の出が悪くなったりすると保護が不十分になり、胃壁が溶かされてしまうこともあります。
胃で溶かされた食べ物は少しずつ十二指腸へと送られていき、さらに消化されます。
小腸の機能
小腸は十二指腸、空腸、回腸の3つの部位に分けられます。
まずは十二指腸についてお伝えしていきます。
十二指腸の解剖図を確認してみましょう(黄色くなっているところが十二指腸です)。
十二指腸は長さが25cmほどで、指12本分くらいの長さであることからこの名前が付けられています。
食べ物が本格的に消化されるのは、実は十二指腸からです。
胃では食べ物を溶かして、十二指腸での消化を行いやすくしているに過ぎません。
そもそも消化というのは、食べ物の栄養を体に吸収できる状態にすることです。
ただ単にドロドロに溶かしただけでは吸収することができません。
十二指腸で分泌される膵液【すいえき】や胆汁【たんじゅう】に含まれる消化酵素によって食べ物を吸収できる状態にまで分解していきます。
ちなみに膵液や胆汁はアルカリ性です。
強酸である胃酸と混ぜ合わさることで中和され、小腸壁が溶けてしまわないようになっています。
膵液を作るのは膵臓で、胆汁を作るのは肝臓です。
膵臓や肝臓については、後ほど詳しく解説していきます。
膵液や胆汁と混ぜ合わされた食べ物は、十二指腸を過ぎて空腸、回腸へと向かっていきます。
空腸の解剖図を確認しておきましょう(黄色くなっているところが空腸です)。
続いて、回腸も確認しておきましょう(黄色くなっているところが回腸です)。
空腸、回腸でも消化液が分泌されますが、主な働きは吸収です。
ここまで消化されてきた食べ物が栄養素となり、それをいよいよ吸収していきます。
小腸は消化管の中でも飛び抜けて長く、6m〜8mほどの長さがあります。
そして、小腸の表面には多数のヒダが付いています。
このヒダのことを絨毛【じゅうもう】と呼びます(下図は絨毛の模式図)。
絨毛は長さ1mmほどで、それが500万個もあります。
さらに絨毛には微絨毛【びじゅうもう】と呼ばれるさらに小さなヒダが付いています。
小腸なぜこんなにも長く、そしてたくさんのヒダに埋め尽くされているのでしょうか。
それは、栄養をしっかりと吸収するための工夫です。
ヒダがあることによって表面積が大きくなり、より多くの栄養素が吸収できるのです。
小腸を取り出して、ヒダまで引っ張って広げるとテニスコート1面分以上の大きさになるとも言われています。
少しでも多くの栄養を吸収するための効率的な工夫ですね。
吸収され終わった残りカスは小腸から大腸へと運ばれていきます。
ちなみに、食べ物を小腸、大腸内を移動させるために、腸は3種類の運動を行っています。
- 分節運動【ぶんせつうんどう】
- 振り子運動
- 蠕動運動【ぜんどううんどう】
これら3つの運動について、詳しくはこちらの記事に書いていますので興味があればご参照ください。
大腸の機能
大腸の解剖図を確認しておきましょう。
大腸は成人で1.5〜1.6m程度の長さがあります。
大きく分けると盲腸、結腸、直腸の3部位ですが、結腸はさらに細かく分けることができ、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸となります。
大腸の部位ごとの名称を解剖図で確認してみましょう。
大腸の主な機能は便を作ることです。
ですが、水分や一部のビタミンを吸収する機能はあります。
では、どのようにして便が作られているかというと、その中心的な役割を担うのが腸内細菌です。
腸内細菌は主に大腸内に生息しており、その数は100兆から1000兆匹もいると言われています。
想像もできないほど膨大な数の腸内細菌が大腸内には生息しているのです。
実は、私たちが排泄する便のうち、固形成分の1/3は腸内細菌なのです。
数百兆もいれば日々、死んでいく腸内細菌や生きていても便と一緒に排泄されてしまうものもあり、これだけの量が便として出てくるのです。
ちなみに残りの1/3が食べ物の残りカス、1/3が腸壁からはがれ落ちた内皮となっています。
腸内細菌には3つの種類があります。
善玉菌、悪玉菌、日和見菌です。
善玉菌で有名なのはビフィズス菌です。
テレビなどで名前を聞いたことがある人も多いでしょう。
この善玉菌たちは、大腸に運ばれてきた食べ物の残りカスを「発酵」させ、分解して便を作っていきます。
また、善玉菌は免疫力を強くする働きもあり、健康な体に欠かせないものです。
一方、悪玉菌は大腸内で「腐敗」を引き起こします。
同時にくさいガスを作り出します。
ですから、オナラや便が臭い人は悪玉菌が優位になっている可能性があります。
悪玉菌が優位になると、腐敗物から生み出される有害物質が生み出されるようになります。
しかし、有害物をそのまま排泄すると環境に悪影響を及ぼします。
ですから、有害物は解毒器官である肝臓にいったん送られ、処理されてから排泄されるようになります。
今ほど文明が発達する以前は、下水処理などもありませんでしたから、有害物を排泄しないことはヒトの生活を守る上で重要なことであったと考えられます。
これも人類が反映していくためのヒトの体の工夫なのです。
最後に日和見菌です。
日和見菌は名前の通り、善玉菌、悪玉菌のうち優位な方の味方につく菌です。
健康な腸内環境で善玉菌が優位な状態であれば体にとって良い働きをしてくれますが、食生活の乱れや過度なストレスで悪玉菌が優位になれば、体に悪影響を及ぼし始めます。
善玉菌の勢力が衰えると、免疫力低下が引き起こされる可能性があり、全身の健康に影響するようになってしまいます。
大腸は便をつくるだけの器官かと思いきや、全身の健康状態にまで影響する重要な器官なのです。
肝臓の機能
肝臓の解剖図を確認してみましょう。
肝臓は消化器官に分類されることもありますが、その機能は多彩です。
1つは、大腸のところでもお伝えした通り「解毒機能」があります。
このほかに、吸収した栄養素が体内で使える成分にする「代謝機能」、そしてすぐに使わない代謝物を貯めておく「貯蔵機能」があります。
この肝臓の機能を人工的に再現しようとすると、現代の科学技術でも大きな工場が必要になると言われています。
それだけ複雑な機能を持っている肝臓ですから、人の体の中でも最も大きな臓器となっています。
その重さは1.5〜2.5kgほどです。
結構重たいものが右のわき腹についているのです。
ちなみに、肝臓と腸は門脈【もんみゃく】と呼ばれる血管でつながっています。
腸で吸収されたものは、まず肝臓に運ばれていき代謝、貯蔵されます。
そして、吸収したものに毒素があれば肝臓で解毒されるという仕組みです。
この仕組みから考えても、肝臓がいかに重要な器官であるかということがお分かりいただけると思います。
膵臓の機能
膵臓の解剖図を確認してみましょう。
膵臓は肝臓に比べて小さく、長さは15cmほどです。
膵臓は十二指腸のところでお伝えした通り、膵液を分泌する機能がある消化器官のひとつです。
ですが、消化機能だけでなく血糖値を調整する働きも持っています。
近年増加している糖尿病は、膵臓の機能が低下することが主な原因となり血糖値が調整できなくなる病気です。
膵臓も肝臓と同様に全身の健康状態を左右する重要な器官なのです。
膵液は強力な消化酵素であり、三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質のすべてを分解することができます。
胃のところでもお伝えしましたが、人体は消化液で自らの体が消化されることがないように基本的にはできています。
それは膵臓に関しても同様です。
しかし、胆石などの病気によって膵液が逆流してしまうと自己消化してしまうこともあります。
まとめ
消化管の構造や機能について解剖図を交えながらお伝えしてきました。
人は消化管によって栄養を消化、吸収、排泄しています。
それは人が生きていくうえで必要となるエネルギーを作り出すということです。
消化管の働きによって私たちは命をつなぐことができているのです。