「横隔膜ってよく聞くけど、どこにあるの?」
「横隔膜ってどんな働きがあるの?」
この記事をご覧の方は、横隔膜について、このような疑問をお持ちなのではないでしょうか。
横隔膜は、肋骨の下縁あたりで、ドーム状に張っている膜状の組織です。
横隔膜の働きによって、人は呼吸することができています。
深呼吸をするときには、意識して呼吸をしますが、
普段の何気ないときには、息をすることを意識しません。
それでも、呼吸は止まることなく、続いています。
これには、自律神経が深く関わっているのですが、横隔膜は呼吸を止めないために24時間、常に働いています。
今回は、働き者の横隔膜がどこにあり、どのような機能を持っているのかについて詳しく解説していきます。
横隔膜の場所を解剖図でチェック!
まずは横隔膜の場所を解剖図で確認してみましょう。
このように肋骨の下縁に沿って、位置しています。
横隔膜のサイズが、とても大きいことがお分かりいただけると思います。
横隔膜には「膜」という字が入っているとおり、膜状になっています。
ですが、膜状であっても、それを構成するのは筋肉です。
筋肉というだけあって、腕や脚の筋肉と同じように、横隔膜も伸び縮みします。
横隔膜は、解剖学的には、胸骨部、肋骨部、腰椎部という3つのパーツに分けられます。
起始部:胸骨部;剣状突起
肋骨部;第7〜第12肋骨
腰椎部;第1〜第4腰椎
停止部:腱中心
支配神経:横隔神経
となっています。
横隔膜の位置を知っていただいたところで、続いては、横隔膜の機能について解説していきます。
横隔膜の働きとは?
上の解剖図で、横隔膜がドーム状になっていることがお分かりいただけたと思います。
横隔膜は収縮や弛緩【しかん】つまり、縮んだり伸びたりすることで、呼吸を可能にしています。
そのとき、このドーム状の横隔膜の形も変わります。
横隔膜は収縮すると、平坦な状態に近づきます。
下図をご覧ください。
左の図は、息を吸い込むときの状態です。
横隔膜が収縮(縮むこと)をすることで、肺のある胸腔内は、陰圧となり空気が肺に入ってきます。
右の図は、息をはくときの状態です。
横隔膜が弛緩(ゆるむこと)をすることで、胸腔内は陽圧となり、息がはき出されます。
横隔膜は、息を吸うときに最も大きな働きをする筋肉です。
安静吸気の70%は横隔膜にて行われている。
引用文献)呼吸筋の運動学・生理学とその臨床応用 宮川哲夫 理学療法学 第21巻 第8号 553〜558頁
とされています。
また、
横隔膜を機能的に考えると、楕円形のシリンダーの上にドームをかぶせた形をしており、このシリンダー部分は、胸郭の内面と接しており、”zone of apposition”と呼ばれ重要な部分である。
安静呼吸では、横隔膜は主として体軸方向にピストン運動をすることにより肺気量の変化を生じておりzone of appositionは2cm、胸郭下部で左右径0.3cm、前後径0.5cmの変動がみられる。
引用文献)呼吸筋トレーニング 宮川哲夫 理学療法学 第15巻 第2号 208〜216頁
zone of appositionとは、胸郭の内面と接している起始部分のことです。
zone of appositionが呼吸において、重要な働きをしているということです。
ところで、呼吸は無意識に行われることもあれば、意識的に行うこともできます。
このような働きを持つのは珍しいことです。
例えば、心臓は無意識に動きますが、意識的に動かすことはできません。
その他の内臓をとってみても、どれも意識的に働かせることができないものばかりです。
無意識でも呼吸が止まらないのは、自律神経の働きが影響しています。
自律神経には、交感神経と副交感神経があります。
これらの神経は、よく自動車のアクセルとブレーキに例えられることがあります。
交感神経がアクセルで、体を活発に働かせるときに活動します。
副交感神経はブレーキで、体をリラックスさせるときに活動します。
呼吸にも自律神経が大きく影響しており、
腹式呼吸における呼息ー吸息時間の変化が及ぼす自律神経への影響 日本看護医療学会雑誌 片岡秋子 渋谷菜穂子
によると、
腹式呼吸時の呼息6秒対吸息4秒は呼息5秒対吸息5秒の場合より、副交感神経活動が優位になった。
とされています。
副交感神経は体をリラックスさせる神経ですから、
息を吸うのよりも吐くのを長くすると、体をリラックスさせる効果がある
と、この研究から考えられるでしょう。
このように呼吸には、心身の状態を変化させる働きもあるのです。
横隔膜にくっつく肝臓
横隔膜が収縮や弛緩することで、大きく上下に動くことはお分かりいただけたと思います。
横隔膜が動くとき、その上には肺があり、呼吸が行われます。
では、横隔膜の下にはどのような臓器があるのでしょうか。
横隔膜の下に張り付くように存在しているのが、肝臓です。
肝臓は、横隔膜にぶら下がるようにして存在しています。
実は、肝臓は人体最大の臓器で、重さは1.0~1.5kgほどもあります。
ここまでお伝えしてきたように、横隔膜は上下に動く組織です。
そんなところに、肝臓のように大きな臓器がくっついていては、あきらかに邪魔です。
なぜ、このような構造になっているのでしょうか。
横隔膜と腸の関係とは
人体最大で、重たい臓器である肝臓が、横隔膜の下に位置しているのにはワケがあります。
そこには、腸の存在が関係しています。
腸といえば、大腸と小腸に分けられますが、これらの臓器は栄養を吸収できる唯一の器官です。
一部、胃から吸収されるものもありますが、生命活動を維持するには、腸からの栄養素の吸収が欠かせません。
吸収した栄養素は、まず肝臓に送られます。
肝臓には、体内に入ってきた有害物を処理する働きがあります。
ですから、間違って有害物が体内に入ってしまったときにも対処できるよう、栄養素はまず肝臓に送られるのです。
ところが、人は2足歩行の動物です。
重力に逆らって、腸から肝臓へ栄養素を含んだ血液を押し上げなければなりません。
そんなときに、動力源として働くのが、横隔膜にくっついた肝臓です。
呼吸のたびに横隔膜が上下すると、肝臓が漬物石のような働きをして、腸を圧迫、解放をし続けるのです。
その力を動力源にして、栄養素を含んだ血液が重力に逆らって、肝臓まで押し上げられます。
人の体ってよくできていますね。
まとめ
横隔膜の場所を解剖図を用いて解説し、その働きについてもお伝えしていきました。
横隔膜がどこにあって、どんな組織なのか、おわかりいただけたのではないでしょうか。
横隔膜と肝臓、腸の関係について知っていただいたように、ヒトの体は理由があって、その場所に配置されています。
解剖学を勉強してみると、いろいろな面白い発見がありますよ。